SNSで不祥事続発、企業側対策の決定打とは?

相談者 YKさん

  • イラストレーション・いわしま ちあき

 たった3本のツイッターでこんな大騒ぎになるとは……。

 私は全国展開の某薬局チェーンの法務部に所属しています。社員のツイッターによる、私的な“つぶやき”がネットでの大騒ぎ“炎上”を引き起こし、会社に苦情メールが殺到したのです。
「これは犯罪では?」「こんなアブナイ社員のいる会社には不買運動を起こす」

 騒ぎは “大爆発”し、社長からの叱責、取引先への謝罪、厚生労働省への報告、マスコミへの記者会見……などの事後処理に追われています。

 今回はそのことについて、ご相談したいのです。

 くしくも、この連載「おとなの法律事件簿」では、初回の「軽い“つぶやき"が重大な事態を招く」(2011年8月10日)で、ツイッターやフェイスブックなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)による企業不祥事が取り上げられていました。読んだときには、自分と関係のない、対岸の火事だと思っていました。しかし、トラブルを収拾しなければならない当事者になるとは、そのときは考えもしませんでした。

 わが社の20代男性社員が発した“つぶやき”は次のようなものでした。

 「しつこい上司がトイレに行った隙に、グラスにこっそり睡眠導入剤を入れちゃって」

 「ていうか、大トラの課長を早く静かにしたくて」

 「女の子じゃなかったから、大丈夫でしょ? これくらい」

 ちなみに、この睡眠導入剤は治療目的以外の使用や所持が法律で禁止されています。彼は、忘年会での悪ふざけの一部始終をつぶやいたらしいのです。仲間内だけで話している分には、笑い話ですんだかもしれません。たぶん、そんなノリだったのでしょう。

 しかし、いったんネットに載ったら、世間に公表されたのと同じことです。無防備にも、ツイッターに公表していた彼の実名がフェイスブックで検索され、卒業大学や勤務先などの個人情報が丸裸にされました。

 つぶやきの内容と会社名は、いくつかの掲示板に転載されて、たちまち炎上。マスコミにもあっと言う間に伝わり、謝罪会見を開くはめに……という次第なのです。スポーツ新聞や週刊誌には、わが社の対応のドタバタぶりが、面白おかしく書き立てられました。

 「コンプライアンス(法令順守)教育はいったいどうなっているんだ」

 法務部長以下、部員全員に社長から雷が落ちたのは当然のことです。今後、同様の不祥事が二度と起きないよう、対策を立てることを社長から命じられました。

 SNSがらみの不祥事を調べてみました。連載第1回が掲載された2011年8月以降も、SNSの飛躍的な普及に伴い不祥事は続発しています。今やSNSは企業が直面している重大なリスク要因と言えるかもしれません。

 一方で、いち早く対応策を充実させている会社もあると聞いています。わが社も他社にならい、SNSガイドラインのようなものを一応は作ろうとしました。しかし、作っても社員が本気で読んでくれるのかも含めて、その実効性に疑問を持っています。

 第1回の連載では、社員教育の重要性が強調されていました。しかし、研修など具体的にどのような対策をとればいいのか、わかりません。今後、企業が取るべきSNS対策について教えください。(最近の事例を参考に創作したフィクションです)

回答


SNSにかかわる法務リスク対応の遅れ

 既にこの連載を担当して約半年が経過しました。その時々の様々な法律問題について解説を書いてきましたが、第1回のSNSに関する話題は、私の周囲の企業の皆さんから、非常に大きな反響を得ました。私がインターネットビジネス関連法務を専門分野の一つとしており、周囲にネット企業の関係者が多いという事情もあるかもしれませんが、あの当時、SNSにかかわる法務リスクに焦点をあてた記事が余り見当たらなかったことも理由の一つに挙げられるかと思います。

 先日、大手監査法人のトーマツが、昨年8〜9月にかけて、企業のソーシャルメディア対応に関して実施したアンケート結果を発表しましたが(「企業リスク」第34号 トーマツ企業リスク研究所発行)、驚いたことに、アンケート回答企業111社のうち、「ソーシャルメディアポリシーの策定予定なし」と回答した企業が82社、「ソーシャルメディアに関する職員教育・研修を実施しておらず予定もない」と回答した企業が76社に及ぶという結果となっています。

 もちろん、その後、多くの企業で対応が進んでいるとは思いますが、近時、私が様々な企業の社内研修などで講演した実感として、ネット企業ではある程度の対応が進んでいるものの、やはりネットとあまり関係のない多くの企業ではまだまだ対応は進んでいないということです。そして、言うまでもなく、ご質問者が勤務するような、本業がネットに関係ない企業の社員も、日々、ツイッターやフェイスブックで情報発信を続けているわけであり、企業の対策が、社員によるSNS利用の飛躍的拡大に全く追いついていないという現状があるわけです。

 そこで、今回は、本連載第1回の記事内容を織り込みながら、現時点におけるSNS対策について、私の思うところをお話ししてみたいと思います。

企業、団体に関連する主なSNS事件

 <1>平成23年1月…ウェスティンホテル事件(第1回記事を参照)

 <2>平成23年2月…三越伊勢丹事件(第1回記事を参照)

 <3>平成23年3月…TSUTAYA事件
 TSUTAYAのある店舗が、「営業再開しました!テレビは地震ばっかりでつまらない、そんなあなた、ご来店お待ちしています!」とツイッターに書き込んだ事件。

 <4>平成23年4月…東京電力事件
 東京電力社員が、「なんでウチの社員に給与出すんだなんて言ってる人たちがいるけど、ウチの社員結構現金な人多いから、給与カットした瞬間に仕事しなくなるよ。福島も柏崎も同時にメルトダウンするし関東も大停電して復旧しない。それでもいい?」とツイッター上で発言した事件。

 <5>平成23年5月…アディダス事件(第1回記事を参照)

 <6>平成23年7月…なでしこジャパン事件
 サッカーなでしこジャパンの選手との飲み会での発言を、そこに参加した大学生がツイッター上で発言した事件。所属大学が謝罪するとともに、学生と面談し厳重注意する旨を発表。

 <7>平成23年8月…ネットマイル事件
 ネットマイル社員が同社の社員採用面接の実況中継をGoogle+において実施した事件(会社は、HP上で謝罪するとともに虚偽の実況中継であったと説明)。

 <8>平成23年8月…嵐櫻井翔・宿泊部屋事件
 人気グループ嵐の櫻井翔が利用したホテルのチェックアウトした後の部屋の様子を、同ホテル従業員とみられる女性がツイッターでリポートした事件。

 <9>平成23年8月…「まんべくん」事件
 北海道・長万部町のキャラクター「まんべくん」が、終戦記念日前日に、ツイッターで「どうみても、日本の侵略戦争が全てのはじまり」なとど発言し町長の謝罪にまで発展した事件。

 <10>平成23年9月 日本新薬事件
 日本新薬社員が、「社員が懇意にしている薬局からハルシオン後発品を不正に入手し飲み会の時のお酒に入れた」旨をツイッター上に書き込みし、同社HP上にて正式に謝罪する事態に発展した事件。

なぜ、SNSで問題が多発するのか

 この理由は、第1回で指摘したように、(1)情報の伝播でんぱ速度が従来のメディアをはるかに超えて瞬く間に情報が分散拡大するということ、(2)従前の企業不祥事における従業員の多くが、悪いと知りつつ違法な行為を行っていたのと異なり、実行者(ツイッターで言えば発信者)に悪いことをしているという自覚が全くないということが、あげられます。

 ウェスティンホテルもアディダスも、顧客情報の守秘義務に関する研修や誓約書の提出といった、一般にコンプライアンス上必要とされる施策をすべて実施していたわけですが、両事件の社員にとってのツイッター上での「つぶやき」は、研修や誓約書によって禁止された違法な行為ではなく、単なる友人への報告にすぎなかったわけです。そして、本人すら、あのように情報が急速に伝達・拡散するなど予想しておらず、違法な行為と認識されたときには、既に取り返しのつかない状況に発展していたわけです。

 SNSにおける書き込みという行為は、当の本人にしてみれば、単にメールを書いているのと何ら変わりません(外形的側面)。また、ツイッター等を始めた当初のフォロワーは親しい友人・知人のみであり、そういう意味では、本人にしてみれば、ツイッターでのつぶやきは、親しい友人・知人に対する近況報告や意見開示に過ぎないわけです(主観的側面)。

 有名人のように、当初から多くのフォロワーを抱え、また常に自らの発言が批判にさらされているのに慣れていれば、心構えも違っているでしょうが(そういう有名人でも時にその発言が炎上していますが…)、普通の一般人には、そのような心構えを当初から要求することは困難です。

 そして、このことは、ネットに対する知識や理解とはあまり関係ありません。上記の事件の登場人物の多くが大学生や企業の若手社員など、日常的にネットに触れている層であることからもそれはうかがえます。彼らにとって、ネットでの近況報告や意見開示は日常的であり、あらゆる情報をメールなどで日々やり取りしているが故に、ネットを普段あまり活用していない人よりも、SNSで安易な発信を行う傾向があるわけです。

SNSへの有効な対策は教育しかない

 以上を踏まえ、私としては、第1回記事で提示したように、企業としては、社員に対し、ツイッター、フェイスブック等のSNSは従来の枠を超えた全く新しい情報発信ツールであって、日ごろ活用しているメールとは異なり、開示した友人以外にも急速かつ無限定に伝達・拡散する可能性を持つものであることを、「実例を挙げて徹底して教育する」しかないと思っています。

 想定される事件・事故が存在する場合の有効な予防策は、言うまでもなく、当該事件・事故における「原因」を取り除くことにあるわけですが、SNSを巡る事件・事故の主要な原因とは何でしょうか。

 たとえば、企業において社員が何らかの事件・事故を起こす原因として、よく経済的事情の存在が挙げられます。経済的に困窮した社員が顧客情報流出事故を起こした三菱UFJ証券における「業務改善報告書」では、再発防止策として、「当社にも消費者金融からの借入れ等の理由から経済的に困窮している社員が一定数存在する可能性があるものと思われる。社員のプライバシーに配慮しつつ『悩み事相談窓口』的対応を充実させ、窮状から脱出するための専門家の紹介等を行う制度が検討されてよい」と記載されています。

 同様に、SNS事件・事故における主な発生原因を分析すると、前記の多くの事件において共通しているのは、SNSを親しい友人・知人に対する近況報告や個人的意見開示の道具として、一般のメールによる情報伝達と同視しているということは明白です。であれば、その意識を修正すること、つまりその点に関する認識の誤りを是正する教育こそが原因の除去となり得るわけです。

ツイッター、フェイスブックの仕組みの理解

 ツイッターの場合、アカウントの「公開」「非公開」設定ができます。非公開設定にすれば、フォロワー以外の人にその情報は、ツイッターの世界では展開できなくなります(もちろん、パソコンですから、コピペすれば、その情報は再利用できてしまいますが…) 。ちょうど、タクシー、エレベーターの中で友人に話したのと同じレベルになります。

 しかし、通常、ツイッターの情報交換を楽しむためには公開設定でしょうし、発言のつど設定を変えることはできません。その結果、フォロワーは親しい友人10人だけの場合でも、その中の1人がリツイートし、さらにそのフォロワーがリツイートするという手順で、その途中の誰かが、数百人、数千人のフォロワーを持っていれば、あっという間に、何千人、何万人の目に触れるようになってしまいます。

 ツイッターの標準機能である「公式リツイート」の場合、元の発言を削除すれば、情報の伝達は止まりますが、いわゆる「RT」と言われる、返信機能を利用した参照型のリツイートでは、元の情報が削除されても、発言アカウントが残ったまま、情報が残り続けます。情報を転送する多くの場合、コメントをつけられる「RT」を利用するでしょうし、発信者側からどちらの方法で転送するか、指定できるはずもないので、一度つぶやいてしまった情報は、取り消すことはほぼできない仕組みと言えます。

 いずれの方法でリツイートしても、誰が発言したか残ってしまいますから、近時のネット社会では、誰の発言かが、かなりの確度で特定されてしまうわけです(現に前記の各事件では、発信者の極めて詳細な個人情報、つまり氏名・住所は言うまでもなく、就職内定した企業名、自宅の間取りなどまで判明しネット上でさらされたりしています)。

 フェイスブックの場合も、状況は同様です。セキュリティー的には、発言のつど、その発言の公開範囲を簡単に設定できます。自分だけの備忘録にしたり、友達登録したユーザーだけに限定したり、誰にでも見せられるようにしたりと、ツイッターより細かな設定ができるようです。しかし、そもそも、発言のつど設定を変えるのは、その発言の重みを理解できているからであり、先ほど例に挙げた事件のような発言は、発言側に悪意や重要性の認識がないのであって、個別設定をして発言することはないでしょう。そして、ひとたび発言すれば、フェイスブックの方が匿名性が低いので、どんな人が発言したのか容易に追いかけられてしまいます。

具体的事実やそれによる不利益を明示する教育が必要

 とはいえ、このような仕組みの解説を、実際にネットを使いこなしている社員にいくら行っても、おそらく聞き流されてしまうだけでほとんど無意味です。我々がその仕組みを理解せずに携帯電話を利用しているのと同様に、SNSの通常の利用においては、そもそも理解する必要性がないわけですからやむを得ません。

 そこで、実際の教育の場では、SNSの仕組みといった抽象論・機能論だけではなく、前記のような個別事件の詳細を説明し、生の事実を実感してもらうのが重要です。つまり、前記事件のケーススタディー的な教育が効果的であるということです。

 ちなみに、日本で起きているSNS関連事件の多くはツイッターに端を発します。一方、フェイスブックについても、例えば、2011年6月に、ドイツの少女が、自らの16歳の誕生パーティー開催を、フェイスブックを使って友人に呼びかけたところ、プライベートの設定を忘れたことから、世界中のユーザー約1万5000人から出席するとの回答が来ました。慌てた家族がパーティーを中止すると発信したにもかかわらず、1600人を超える男女の出席者が、少女の自宅付近に集結して警察が治安維持のために出動するという騒動が起きました。これなど、フェイスブックの持つ絶大な発信力の一つの表れかと思いますが、これが誕生パーティーの案内ではなく、企業秘密であれば、当該企業は致命的なダメージを受けていたでしょう。こういうSNSの持つ脅威を示した生の実例を、新聞記事などを使って実際に確認してもらう作業が、社員教育において不可欠と思います。

 そしてさらに、事件・事故を起こした社員が果たしてどのような不利益を被ったかという点も厳しく指摘することも重要です。日本の村社会構造の中では、親しい友人になら、多少の仕事上の話をしても許されるだろうという意識(甘え)がありがちです。しかし、悪意や特段の意図はなかったとしても情報漏洩ろうえいが懲戒事由になることは言うまでもなく、自らが引き起こした事件・事故の発生は社員の雇用に重大な影響を与えることになります。

 また、社員にとっては、勤務先から損害賠償請求を受けるリスクも負うことになります。第3回記事でもご紹介したように、情報漏洩を起こした三菱UFJ証券の社員は70億円に及ぶとされた損害の一部を賠償請求されるとのことであり(報道による)、また、通販大手ジャパネットたかたが2004年に起こした顧客情報流出事件では、同社が、情報漏洩した社員に対して損害賠償請求訴訟を提起し、裁判所は1億1000万円の損害賠償を認めています(長崎地方裁判所佐世保支部2008年5月15日判決)。

 つまり、事件・事故を起こした社員は、勤務先から懲戒処分されるばかりか(最悪の場合、懲戒解雇となります)、一生かかっても支払いきれない賠償責任を負う可能性すらあるわけで、そういう現実を明確に社員教育の中に盛り込んでいくべきです。

SNSガイドラインの有効性

 近時SNS対策として多くの企業が、SNS利用ガイドライン(前記アンケートにおける「ソーシャルメディアポリシー」と同義)のようなものを策定しており、私も、ガイドラインの内容についてご相談を受けることが度々あります。

 ただ、具体的な書き込み内容まで詳細に規定するとすれば、対象が広すぎて資料が大部になってしまい、誰も読まなくなってしまう恐れがあります。また逆に、抽象的、形式的な規定では何をしてよいか社員が判断に迷うことになり、やはり実効性に不安があります。

 そういう意味では、ガイドラインを設定さえすればよいという企業姿勢には疑問があり、必ずしもガイドライン策定は、有効なSNS対策とはなっていないと思います。

 ただ、その企業において、SNSをどのように捉えて、どのように活用していこうとしているのかの意思表明の意味合いから、最低限のガイドラインは策定して公表すべきと思いますし、ガイドライン公表のタイミングで、上記のような社員研修を行うのであれば有意義ではないかと思っています。

 とはいえ、ガイドラインを策定した上で、何をするかがむしろ重要だということを忘れてはなりません。

SNS利用の簡単な指針として

 以上述べてきたように、企業において重要なのは、SNSを利用する者に対し、この新時代の伝達手段の特性と、それに伴うリスクにかかわる「共通認識」を十分に理解させるということです。

 ここでいう「共通認識」とは、具体的に言えば、(1)ツイッターでの友人への書き込みが、メールによる情報伝達とは異なり、タクシーの中やエレベーターの中での会話以上に危険で、急速かつ広範囲に伝達される可能性があること、(2)友人への何気ない書き込みによって、自らの所属する企業ばかりか、自らの人生にまで重大な影響を及ぼすことがあるという、従来の伝達手段にはなかった甚大な影響力を有するという認識です。

 第1回記事では、上記共通認識の徹底をはかり、ツイッターによる発言が、公の場での発言と同じ意味を持つことを十分に理解してもらった上で、企業人が公の席で守るべき最低限のルール(<1>自分が職場で見聞きした顧客等のプライベートな情報を話したりしない、<2>社会常識に反した特殊な意見を表明しない、<3>誤解を招きそうな発言を行わないなど)を順守する。より具体的に言えば、SNS利用の際には、「自分の名前と、所属する企業名を明記した名札を胸につけて、公の席で発言できないようなことは、その相手が誰かにかかわりなく発信しない」という、極めて「当たり前」のことを、SNSの仕組みと、上記のような事件実例を交えながら社員に徹底していくべきと指摘しましたが、その考えは今も変わっていません。

 なお、ガイドラインや社員教育は言うまでもなく、事前の防止策なのであり、十分な防止策を講じても、事件・事故が発生する可能性はあります。社員が不適切な発信をしてしまってからの事後対策としては、日々のウェブモニタリング、モニタリングで情報をつかんだ後の収束への対応策整備などの問題がありますが、その点の解説は今回割愛します。

企業におけるSNS制限論について

 最後に、SNSの事件・事故の多発に伴い、一部企業では、SNSの利用を制限する動きも見られると聞きますが、そのような動きは極めて疑問です。

 SNSは単なる「仕組み」に過ぎません。それが良いか悪いかの話ではなく、どう使いこなすかだけの問題です。SNSを危険なものとみなし使用を制限するのは、SNSの持つ無限の可能性を放棄することになり、企業としての成長を阻害することにもなりかねないということを企業は認識すべきです。

 今、ネットビジネスの世界は大きな転換期にあります。

 ネット黎明れいめい期は、「場所の時代」と言えます。無限のサイバー空間の中で、人が集まる場所を押さえた者が優位性を保てました。多くの人は、いったん特定のサイトに集まりそこから他の興味あるサイトに遷移していったからです。必然的に、最初に集まる「場所」であるポータルサイトが力を持ち、yahooが覇権を握りました。続いて訪れたのが「言葉の時代」です。検索エンジンの発展に伴い、特定のドメインを打ち込むことなく、自分の興味のある言葉に関係あるサイトに一気に遷移することが可能となり、その言葉に力を与える検索エンジンを押さえた者が力を持ちました。この時代の覇者は言うまでもなくGoogleです。

 今、新たに「人(つながり)の時代」が訪れようとしています。この時代は、人と人とのつながりを押さえた者が優位性を保てるのであり、SNSのように、人と人との密接なつながりをサポートする者が力を持つことになります。そこでの覇者はまだ確定していませんが、フロントランナーがフェイスブックであり、ツイッターであることは言うまでもありません。

 つまり、現在のSNSの隆盛は、今まで現れては消えていった様々なネットの潮流とは異なり、ネットビジネスの時代の転換にともなう主役の交代なのであって、この新時代における武器を使いこなせる企業こそが生き残れると考えられます。他面、その影響力の大きさ故に、社員の不用意な発信が企業(さらには発信者個人)を重大な危機に陥れるリスクも当然あります(両刃の剣)。

 企業としては、リスクだけに目をとらわれず、ネットの新時代における武器をどのように活用していくかを検討すべきなのは言うまでもありません。

2012年01月11日 09時15分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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