格安食事クーポンをネットで購入、調べたらいつもその値段 問題では?

相談者 GUさん
  • イラストレーション・いわしま ちあき

 「一度も1万円で出したことのない料理を、定価1万円と説明するなんて、ほとんど詐欺でしょうが」。私はワインをつぎにきたウエーターに大声で文句を言いました。ざわついた店内が急に静まり、客の視線が私に注がれています。酔いがさめ、胃袋に収まった高級イタリアンのディナーが急にまずくなってきました。

 最近、割引クーポンの共同購入サイトを利用しています。このサイトでは、例えば、通常なら2万円のフランス料理店のフルコースをキャンペーン期間中だと、60%引きの8000円で食事できる――というようなクーポンを購入できるのです。ただし、クーポンの購入希望者が一定数以上に達しなければならない、という条件があります。

 レストランの料理だけでなく、エステティックサロン、レンタカー、ホテルの宿泊、資格教室など、いろいろなサービスが破格の割引価格で提供されているのです。それらの商品やサービスを見ているだけでも、楽しくなってきます。

 このサイトに、一度は行ってみたいと思っているレストランとかのクーポンがあれば、格安で利用できます。また、知らないお店であっても、6割引きの値段なら、「失敗してもいいから、ちょっと試してみようか」という気持ちになります。どうやらクーポンを提供しているお店も、新規顧客の開拓のために宣伝も兼ねて低価格のクーポンを提供しているようです。お店もお客も得をするウィン・ウィンの関係なのでしょう。

 さて、いつものように、そのサイトを見ていたところ、会社からの帰り道に新しくできたイタリアンのクーポンが目を引きました。通常であれば1万円のディナーコースを、50%オフの5000円で食べられるクーポンでした。私は、家に帰る途中、家族でおいしく食事できるようなお店をちょうど探しており、サイトに載っていた料理の写真はとてもおいしそうでしたので、「50%オフならハズレでもいいや」と思い、購入してみました。

 クーポンが使えるのは1週間後です。楽しみに待っているうちに、このレストランに行ったことがあるという近くに住む知人に話を聞くことができました。

 「料理の構成も味もまあまあだったよ」

 食通の彼は“太鼓判”を押してくれました。めったにお店を褒めないだけに、レストランの味はそれなりのレベルだということがわかりました。知人は5000円のコースを食べてきたそうです。

 「1万円のディナーとなると、かなり期待ができそうだ。それを半額で食べられるのだから、お得だよな」。私は1週間後が待ち遠しくて、たまらなくなってきました。

 さて1週間後、クーポン券を手にレストランに行きました。「さすが1万円のコースは違うよ」。私は大満足でフォークとナイフを動かして、次々と運ばれてくる美食を口に運びました。マグロとアボカドのタルターラ、オレンジソースのかかった手長エビと海の幸マリネ、パルマ産生ハムの温野菜サラダ、イベリコ豚のロースト……。

 どれもおいしいのですが、食べている途中に何か違和感を覚えました。「えっ、このメニューは?」。テーブルに置かれたメニュー表で全11品の料理名を見たときに違和感の正体を知りました。知人から聞いた5000円のコースと料理の内容がほとんど同じです。ウエーターを通して、店長を呼びつけました。

 「内容的には1万円相当の料理であることは間違いございません。ただ、リーズナブルなお値段で料理を召し上がっていただくために、もともと値引きを想定して組んだ、数量限定のお得なコースなのです」と店長。

 お店では、このコースを一度も1万円でお客に提供したことはないと認めるものの、変な理屈をつけて非を認めようとしません。しかし、私は「1万円の料理を5000円で食べられる」つまり、「普段は1万円で提供されている料理を期間限定で安く提供している」という宣伝文句に釣られてクーポンを買ったわけであり、これではだまされたとしか思えません。

 ネットでの広告は、どうしても商品写真や、商品の説明文に頼らざるを得ないので、その内容にうそや大げさな表示があっても、なかなか見抜けません。この点について何かきちんとした規制とかはあるのか、教えていただけますでしょうか?(最近の事例を参考に創作したフィクションです)

回答


スカスカおせち事件の記憶

 2008年11月にアメリカで創業したグルーポン(Groupon)が提供するビジネスモデル(割引価格を提供するクーポンを、期間限定で、インターネット上で事前に共同購入するサービス)は日本でも普及しています。短時間(フラッシュ)に集客等を行うことから、「フラッシュマーケティング」などとも呼ばれています。グルーポンは、2010年10月には日本にも進出しましたが、そのサービスが原因となって、2011年の年始早々にネットでの話題を独占したのが、「スカスカおせち事件」です。まだ覚えている人も多いかと思います。

 グルーポンで、横浜の有名レストランのおせちを50%引きの1万500円で購入できるクーポンが登場し、500人が購入してクーポンの提供が成立したことが騒ぎの発端です。当時のグルーポンのサイト画面には「50%OFF【10,500円】2011年迎春《横浜の人気レストラン厳選食材を使ったお節33品・3段・7寸(4人分)配送無料》12月31日着」と明記され、その下には、目にも鮮やかな豪華おせちの写真が掲載されていました。

 しかし、実際に届いたおせち料理は隙間だらけでした。用意した器が大きすぎたという問題ではなく、どうみても盛られていた料理が少なすぎました。料理の内容もひどく、市販の6Pチーズがそのままアルミホイルに包まれ無造作に入れられているという代物でした。しかも、報道によれば、クール便ではなく普通の宅配便で送られて既に腐っていたり、おせちであるにもかかわらず12月31日に間に合わなかったという例もあったようです。

 結局、1月5日には、グルーポンがサイト上で、配送が遅れ、商品内容が表示と異なることを確認したうえで謝罪し、該当するクーポン購入者全員に全額を返金するなどの措置を取ることで問題の収拾に乗り出しました。

ネットにおける不適切な表示の問題

 いつでもどこでもネットにつながることができるスマートフォンの普及に伴い、ネット上での商取引が伸びました。それと同時に、ネット上で商品やサービスを提供している業者間の競争が激化しています。そして、競争を勝ち抜くため他企業との差別化を図り、少しでも顧客にアピールしようとして、つい過剰な表示をしてしまうというのは、いつの時代もどの業界も変わりません。ネットの世界でも、競争が激化する中、不適切な表示をして、消費者庁から指導を受けるという事例が増えています。

 今年10月26日、楽天は、子会社のカナダKoboが運営する「koboイーブックストア」のオープン当初の電子書籍数について、景品表示法上不適切な部分があったとして、消費者庁から行政指導を受けた旨を発表しました。

 報道によれば、7月19日のオープン当初、電子書籍端末「kobo Touch」のパンフレットなどに、koboイーブックストアの日本語のコンテンツは「約3万冊」と表記されていましたが、実際は1万9164冊だったことが指摘を受けたようです。

 この背景にあるのは、言うまでもなく、アマゾンによる電子書籍端末「Kindle」の日本発売に伴う競争から来る危機感であることは想像に難くありません。

 今回のご相談も、あるレストランで普段から5000円で提供しているコース料理をあたかも、普段1万円で提供しているかのような表示が、クーポンサイト上で行われた結果、サイトを見た消費者が他店に行くよりクーポンを購入して当該店舗を利用した方が有利であると誤認したことに問題があるわけです。不適切な表示の典型例と言えるものです。

 そこで、今回は、日々競争が激化している、インターネットの世界における「広告表示」の問題を取り扱ってみたいと思います。

消費者庁による新しい指針の公表

 消費者庁は、平成23年3月、「インターネット取引に係る消費者の安全・安心に向けた取組について」と題する書面を公表しました。インターネット消費者取引の拡大につれて、様々な類型のサービスが消費者に向けて提供され、利便性が向上する一方で、トラブルや消費者被害も拡大していることを受けたものです。

 そこでは、インターネット取引は、対面取引のように実物を手にして商品の性能を確かめたり、事業者から役務の内容について説明を受けたりすることが難しいことから、当該取引を行う画面上の広告表示が、消費者が取引に関する判断を行うにあたり対面取引等の場合以上に大きな役割を担うことを指摘しています。

 そのうえで、広告表示を適正なものとしていく取組が、対面取引等の場合にも増して重要であると説明しています。また、インターネット取引が、小規模な事業者が多数存在し、また様々な役割を果たす多種の事業者が存在するといった、対面取引等とは異なる特性を有していることから、広告表示の適正化に向けた取り組みにあたって、そのような特性を踏まえたものとしていくことの重要性を指摘しています。

 そして、その提言を受けて、消費者庁は、平成23年10月28日、「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」(以下、「消費者庁資料」とします)を公表しました。

 その資料では、「フリーミアム」「口コミサイト」「フラッシュマーケティング」「アフィリエイトプログラム」「ドロップシッピング」の五つのインターネット消費者取引のモデルを取りあげています。それぞれについて、「定義・概要」「景品表示法上の問題点と留意事項」「問題となる事例」などを解説しています。

フラッシュマーケティングについて

 消費者庁資料では、その定義・概要を「商品・サービスの価格を割り引くなどの特典付きのクーポンを、一定数量、期間限定で販売するビジネスモデル。基本的に、『通常価格』と『割引価格』の『二重価格表示』を行う(例外あり)。」と説明しています。

 そのうえで、フラッシュマーケティングにおける「景品表示法上の問題点と留意事項」として、クーポンサイトで、実際には比較対照価格である「通常価格」での販売実績が全くないのに、「通常価格」と「割引価格」の二重価格表示をすることを取りあげ、クーポンの対象となっている商品・サービスについて、一般消費者に当該商品・サービスに係わる「割引価格」が実際のものよりも著しく有利との誤認を一般消費者に与え、景品表示法上の不当表示として問題となるとしています。

 そして、クーポンサイトにおいて、クーポンの対象となる商品・サービスに係る二重価格表示を行う場合には、最近相当期間に販売された実績のある同一商品・サービスの価格を比較対照価格に用いるか、比較対照価格がどのような価格であるかを具体的に表示する必要があると明記しています。

 同資料では、フラッシュマーケティングにおいて「問題となる事例」として、具体的に、「クーポン適用後の『割引価格』を『1,600円』と表示するとともに、『通常価格 5,730円、割引率 72% OFF、割引額 4,130円』と表示したが、実際には、クーポンの適用対象となる商品を『通常価格』で販売した実績がなかった」場合を挙げています。

 ご相談事項は、まさに一度も通常価格とされた1万円で提供した実績などないコース料理を、クーポン購入者には、50%引きの5000円で提供するとして販売しているわけであり、景品表示法上問題となる典型的な事案であることがおわかりになると思います。

二重価格は古くて新しい問題…本間ゴルフ事件

 この二重価格の問題は、古くから景品表示法違反の典型例とされてきたものであり、大手ゴルフ用品メーカーである「本間ゴルフ」の事件が有名です。

 この事件は、インターネット上の広告について、公正取引委員会から、景品表示法違反として排除命令が出された初のケースとされています。ちなみに、平成21年9月の消費者庁創設に伴い、景品表示法の所管が公正取引委員会から消費者庁に移管され、「排除命令」は「措置命令」と名称が変更されています。以下、“事件”の概要を説明します。

 平成13年2月28日、本間ゴルフは、その製造販売するゴルフクラブをインターネット上で販売するに当たって、同社が「時価」と称する名目価格と実際の販売価格を併記する、不当な二重価格表示を行っていたとして、公正取引委員会から景品表示法違反で排除命令を受けました。

 具体的には、「Yahoo!ショッピングに平成12年6月1日から、楽天市場に同年8月1日からそれぞれ掲載していたゴルフクラブ16品目の広告において、例えば「HONMA BIG-LB NTCM40 定価380,000円 特価(又は特別価格)138,000円」と記載するなど、「定価」と称する価格を実際の販売価格に併記する二重価格表示を行っていました。

 当該「定価」と称する価格は、それぞれの商品の販売開始時における自社の直営店での販売価格であって、同社により最近相当期間に販売された実績のある価格ではないことから、これらは、実際の価格が著しく安いかのように見せかける表示をしていたと認定されたものです。

 なお後日談ですが、上記二重価格問題は、新聞等にも大きく取りあげられて本間ゴルフは社会的イメージを失墜させました。そして、平成17年6月20日には東京地裁に民事再生の申し立てを行い事実上倒産しましたが、上記事件が業績に影響したことが遠因とも言われています。

二重価格とは?

 二重価格とは、事業者が自己の販売価格の他に、その価格よりも高い他の価格(「比較対照価格」)を併記して表示するものですが、その内容が適正な場合には、消費者の適正な商品選択と事業者間の価格競争の促進に資する面があります。しかし、仮に販売価格の安さを強調するためだけに用いられた比較対照価格の内容についてきちんと適正な表示が行われていない場合には、消費者に販売価格が安いとの誤認を与えることになり、不当表示に該当するおそれが出てきます。

 この点について、判断基準を明記しているものが「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」(価格表示ガイドライン)であり、おおむね、以下のような内容の記述がなされています。

 例えば、需要喚起、在庫処分等の目的で行われる期間限定のセールなどにおいて販売価格を引き下げる場合、過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示が行われることがよくあります。この場合、比較対照価格に用いられる過去の販売価格の表示方法は一様ではなく、価格のみが表示されている場合、「当店通常価格」「セール前価格」等の名称が使われる場合、どのような価格かについて具体的な説明が付記されている場合など多様です。そして、このように過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示が行われる場合において、比較対照価格がどのような価格であるか具体的に表示されていない場合、一般消費者は、通常、同一の商品が当該価格でセール前の相当期間販売されており、セール期間中において販売価格が当該値下げ分だけ安くなっていると認識するものと考えられます。そこで、過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う場合に、同一の商品について最近相当期間にわたって販売されていた価格とはいえない価格を比較対照価格に用いるときは、当該価格がいつの時点でどの程度の期間販売されていた価格であるか等その内容を正確に表示しない限り、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがあります。

二重価格の許容範囲

 上記のように、通常価格と併記する比較対照価格が、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」であれば、不当表示に該当しないことになりますが、その基準は具体的にどのように考えればよいでしょうか。

 この点、ガイドラインは「当該価格で販売されていた時期及び期間、対象となっている商品の一般的価格変動の状況、当該店舗における販売形態等を考慮しつつ、個々の事案ごとに検討されることとなるが、一般的には、二重価格表示を行う最近時(最近時については、セール開始時点からさかのぼる8週間について検討されるものとするが、当該商品が販売されていた期間が8週間未満の場合には、当該期間について検討されるものとする。)において、当該価格で販売されていた期間が、当該商品が販売されていた期間の過半を占めているときには、『最近相当期間にわたって販売されていた価格』とみてよいものと考えられる。」としています。ただし、これには例外があり、

 (1)比較対照価格に用いようとする価格で販売されていた期間が通算して2週間未満の場合

 (2)比較対照価格に用いようとする価格で販売された最後の日から2週間以上経過している場合――においては、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とはいえません。

 この点の基準は、ややわかりにくいところなので、二重価格について疑問がある時には、消費者庁に問い合わせを行うことをお勧めします。

まずは割引クーポン共同購入サイトに相談を

 本件ご相談ですが、そのレストランで一度も1万円で提供したことはないのに、通常であれば1万円のところ、50%引きの5000円で提供すると表示することは、不当な二重価格表示を行っていたことになります。まさに、消費者庁がフラッシュマーケティングにおいて問題となる事例として挙げた典型例に該当するわけです。

 そして、消費者庁の資料では、割引クーポンを利用できる店舗等に二重価格表示をしないように注意喚起するとともに、クーポン発行会社に対しても、「自らのクーポンサイトに店舗等の商品・サービスを掲載するに際して、当該商品・サービスの自らのクーポンサイト以外における販売の有無等を確認し、販売されていないなどの場合には掲載を取りやめるなど、景品表示法違反を惹起じゃっきする二重価格表示が行われることのないようにすることが求められる。」とし、クーポンサイト側にも一定の責任を負わせています。

 したがって、ご相談者としては、当該レストランに抗議して何らかの解決を図ることも考えられますし、らちが明かなければ、そのクーポンを販売したサイトに対して、同サイトが確認を怠ったことから、不当な表示のなされたクーポン販売が行われて被害を受けたことを理由に抗議して、解決を図ることも考えられます。

 冒頭に述べたスカスカおせち事件でも、おせちを提供したレストラン側ではなく、サイト運営者であるグルーポンが解決に向けた対応をしています。

 ご相談者の場合も、通常は一定の企業規模を有し真摯しんしに対応してくれることが期待できるクーポンサイトの運営企業と協議する方が、解決は早いかも知れません。

 それでも何らの解決も図れない場合には、消費者センターに相談されることになるでしょうし、仮に、表示の不正について糾弾したいということであれば、消費者庁や都道府県の景品表示法担当窓口に直接連絡することになるでしょう。

2012年12月26日 09時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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