家賃の契約更新料、支払いを拒否できる?

相談者 TOさん

  • イラストレーション・いわしま ちあき

 家賃17万円で、東京都内のマンションを借りたのは5年前のことです。住環境のよさが気に入り、移り住むことにしました。女性誌でよく取り上げられる東京・多摩川沿いのこの街には大型のショッピングセンターがあり、日用品からブランド品まで買い物には不自由しません。

 公園も多く、河川敷沿いの堤には見事な桜並木が続いています。最寄り駅から地下鉄で都心ターミナルの駅まで、わずか十数分しかかからない交通の便のよさも魅力です。

 3LDKの部屋の下見からの帰り道、私は部屋を借りようと決めていました。

 長男が生まれたばかりのころで、妻も「子供を育てるには申し分のない環境だね」と、賛成してくれました。

 「礼金・敷金はそれぞれ1か月分で、契約期間は1年です。礼金は戻ってきませんが、敷金は原則として借主様に返還されます。ただし退去後、壁紙や襖などの補修費が多額になる場合は戻ってこない場合があります」と不動産屋の若い担当者が説明してくれました。

 築年数にもよると思いますが、床面積70平方メートルで駅から徒歩5分だと、このあたりの家賃は20万円以上が相場です。それより3万円も安く借りられたことに満足して、契約書にサインしました。

 それから5年、日当たりも眺めもよい部屋で快適に暮らしています。階下の住人は、昼間は不在で幼稚園に通う長男がいくら部屋を走り回っても、音で文句を言われることもありません。長く住むつもりです。ただ、1点不満があります。

 それは、契約書に記載されている、更新時における賃料1か月分の更新料の支払いです。毎年、更新の時期が近づくと、何とも損をしたような気になります。不況で給料は上がらないのに、これから子供の学費などで出費がかさみます。できるだけ節約したいのです。

 調べてみたところ、更新時に、更新料を必ずしも支払わなくてもよいとアドバイスするサイトを見つけました。そもそも、更新料が不要の物件もあります。不動産に詳しい知人のアドバイスによると、「更新料を支払うことを規定する契約書の条項は裁判で無効と判断されている。今後、更新料を支払う必要はないし、賃貸人に既に支払った更新料についても、返還を請求できる」とのことでした。

 更新料について、契約書通りに支払わなければならないのでしょうか?(最近の事例を基にしたフィクションです)

回答


最高裁判例では更新料は原則として有効、ただし「特段の事情」がない限り

 いわゆる「更新料」とは、賃貸借契約の期間が満了し、契約を更新する際に、賃借人と賃貸人との間で授受される金銭を言います。「敷金」と違って、返還が前提になっておらず、更新料を必要としない賃貸物件なども多数あることから、この更新料に関する契約条項の有効性につき問題視されていました。

 そして、平成21年から平成22年にかけて、大阪高等裁判所で、更新料条項の有効性を争った3件の判決が出ましたが、そのうち、2件が、更新料条項は無効であると判示したことにより(大阪高裁平成21年8月27日判決、大阪高裁平成22年2月24日判決)、社会的にも大きな注目を集めました。

 他面、3件のうちの1件については、更新料条項が有効であると判断し(大阪高裁平成21年10月29日判決)、裁判所の結論が分かれてしまい、最高裁判所の判断がどのようになるか注目されていました。

 そして、これら3件の事件はいずれも上告され、最高裁判所で争われていたところ、平成23年7月15日に、3件全てにつき判決が言い渡され、その結果、3件ともに更新料条項は原則として有効であるという内容であったことは、ニュースとして大きく取り上げられました。「賃貸住宅の契約更新料は『有効』最高裁初判断」などというような見出しが、当時、様々なメディアで流れていましたので、記憶されている方も多いのではないでしょうか。

 今回のご相談については、結論として、今後の裁判において、この最高裁判所判決を前提にして判断がなされるものであり、更新料については、原則として有効であって、契約書に定められたとおりの更新料の支払いをしなければならないが、例外的に無効と判断される場合もあるということになると思われます。

 以下、最高裁判所の判断をご紹介しつつ、より詳細にご回答したいと思います。

  上記3件の事件について、賃借人側の主張内容は、いずれも、更新料条項が、消費者契約法10条の「消費者の利益を一方的に害する条項」に該当し無効であるなどとするものでしたが、これに対し、最高裁判所は、賃借人側のこの主張を退けています。

 具体的には、最高裁判所は、更新料につき、「これがいかなる性質を有するかは、賃貸借契約成立前後の当事者双方の事情、更新料条項が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考量し、具体的事実関係に即して判断されるべき」とした上で、「賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり、その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると、更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するもの」として、更新料支払の経済的合理性を認めています。

 その上で、「一定の地域において、期間満了の際、賃借人が賃貸人に対し更新料の支払をする例が少なからず存することは公知である」「従前、裁判上の和解手続等においても、更新料条項は公序良俗に反するなどして、これを当然に無効とする扱いがされてこなかった」「更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され、賃借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に、賃借人と賃貸人との間に、更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について、看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない」と判断し、最終的な更新料条項の有効性に関する判断として、次のように結論づけています。

 「賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう『民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの』には当たらないと解するのが相当である。」

「契約期間:1年、家賃の2か月分」が一つの目安に

 つまり、最高裁判所は、更新料条項につき、諸事情に照らし「高額に過ぎる」などの「特段の事情」がない限り、有効であるという判断を示したわけですが、では、ここでいう「特段の事情」に該当するかどうかは、具体的にどのように判断されるのでしょうか。

 前ページのように、最高裁判所は、「更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎる」として、「賃料の額」と「更新される期間」を判断要素として明示しており、その点につき今回の3件の事件を具体的に見ると、「期間2年、更新料が賃料の2ヶ月分」(賃料52,000円、更新料104,000円)、「期間1年、更新料が賃料の2ヶ月分」(賃料38,000円、更新料76,000円)、「期間1年、更新料が賃料の2ヶ月分強」(賃料45,000円、更新料100,000円)となっており、それぞれにつき、最高裁判所は、特段の事情とは認めず、更新料条項を有効としています。

 今回、3件の更新料条項の有効性に関し、最高裁判所が統一的に、原則有効、例外的に無効の余地があると判断したことで、更新料条項自体が消費者契約法10条に違反するものではないこと、少なくとも、上記の期間と更新料の組み合わせである場合につき、他に特段の事情がない限り、原則的には当該更新料条項は有効であることが確認され、確立した判断となっていく可能性が高いと思われます。

 従って、ご相談者のケースは、今回の最高裁判所の判断に従えば、その契約期間、更新料の水準(期間1年、更新料が賃料の1か月分)からして、原則としては、更新料条項自体は有効であると判断されることになると思われます。

 もちろん、最高裁判所は、それ以外の判断要素を否定したわけではありませんから、他の要素とあいまって、同一の契約期間、同一の更新料水準の場合であっても、更新料条項は無効であり、支払いの必要はないという判断が出る余地は残されているとは思います。

2011年10月26日 10時05分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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