息子が夢中のソーシャルゲーム、いったい何が問題?

相談者 YMさん

  • イラストレーション・いわしま ちあき

 「今月のわが家の携帯の料金、上がっていなかったかい?」。クレジットカードの請求書に目を通す妻に、私は恐る恐る尋ねました。「大丈夫よ。ほとんどが家族間での通話とメールだから、1万2、3千円くらいかしら」と妻が答えます。私は安心しました。

 「りゅうがハマっている携帯のゲームで、もしかしたら“買い物”が、かさんだんじゃないかと思ってさ」と私。

 小6の長男、竜太朗は、最近、時間があればソーシャルゲームに熱中しています。ソーシャルゲームとは、他人と交流するソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通して遊ぶゲームのことです。竜太朗はクラスの友達と協力して、魔境を冒険したりするのが楽しくてしょうがないらしいのです。

 私も、学生のころはテレビゲームやPCゲームにはまっていました。戦国武将になりきって、日本を統一するために徹夜をしていた口です。ゲームにのめり込む息子の気持ちもよくわかりますので、「1日30分以内ならゲームをしてもいい」という家庭内のルールを作りました。ゲームの話についていけないと、学校で仲間はずれになるような時代ですから、どこの家庭もゲームで遊ぶのは禁止せずに、一定のルールのもとで自由に遊ばせているようです。

 ただ、最近になって、息子が夢中になっているソーシャルゲームの未成年者への課金についての新聞記事を目にするようになり、その中で、初めて「コンプガチャ」とか「リアルマネートレード」という言葉を知りました。

 「コンプガチャ」は、ゲーム内で課金が発生する特別の仕組み、「リアルマネートレード」はアイテムを実際に売り買いすることのようですが、詳しいことはよく分かりません。記事には、コンプガチャについてはその射幸性の高さが、リアルマネートレードについてはゲームのギャンブル化につながるというような説明が載っていました。

 最近にわかに巻き起こってきたソーシャルゲームに対するバッシングですが、個人的には、「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」というように、ゲームをやるのはあくまでも程度の問題だと思うのです。今の父親世代は、皆、テレビゲームやPCゲームが盛んになり始めた頃に学生時代を過ごし、ゲームに多少なりともはまった体験があるでしょう。あの時も、ゲームバッシングがあった記憶があります。確かに、ゲームに夢中になりすぎるのは問題ですが、ゲームをやっている最中のあのワクワクする気持ちを子供が体験するのも悪くはないな、と思ったりもしています。

 最近、新聞などをにぎわしているソーシャルゲームの何が問題となっているのかを、今後の参考のために教えてください。(最近の事例を参考に創作したフィクションです)

回答


「コンプガチャ」規制報道の波紋

 5月5日付の読売新聞スクープ記事で、ソーシャルゲームの収益源の一つである「コンプリートガチャ(コンプガチャ)」に対する消費者庁の規制方針が報道され、ソーシャルゲーム業界には激震が走りました。そして、5月18日には、新聞報道のとおり、消費者庁が、<オンラインゲームの「コンプガチャ」と景品表示法の景品規制について>と題する見解を公表し、正式に「コンプガチャ」が、景品表示法に抵触する旨の判断が示されました。

 5月5日以降、ソーシャルゲーム各社は、コンプガチャの廃止を発表しました。また、今回の騒動の契機となった、未成年者への高額課金問題への対応策(未成年者の利用限度額の設定)なども矢継ぎ早に打ち出しており、事態は収束に向かいつつありますが、まだしばらくは世間の注目を集めていきそうです。

 ソーシャルゲーム市場が急拡大する中で売り上げを飛躍的に伸ばしてきた新興企業に、にわかに今回の問題が降りかかってきたわけですが、一連の騒動が、急成長に必ずつきまとう一過性の痛みにすぎないのか、ソーシャルゲームに内在する本質的な問題なのかは、現在も各種メディアで議論が続いています。

 今回、相談者の方が述べるように、今までほとんど耳にすることのなかった、「コンプガチャ」「リアルマネートレード」などの言葉が、最近になって急にメディアに頻繁に登場していることもあり、現在、ソーシャルゲームの何が問題となっているのか、そして今回の消費者庁の判断の内容がどのようなものなのかにつき、基本に立ち返ってご説明してみたいと思います。

メディアで指摘されている「コンプガチャ」の問題点

 今回問題となった「コンプガチャ」とは、コンプリートガチャの略称であり、「完成させる」とか「完了する」といった意味を持つ「コンプリート (complete)」という英単語と「ガチャ」の語を組み合わせた造語です。ガチャとは、ゲーム内の電子くじの一種ですが、1回数百円を支払って当たるとアイテムがもらえる仕組みになっています。

 元々は、お金を入れてレバーを回すと玩具が入ったカプセルが出てくる自販機のことで、それが転じて上記のような課金サービスの呼称となったものです。そして、「コンプガチャ」とは、ガチャによってアイテムを集めていき、いくつかの所定のアイテムをそろえると、通常では手に入らない希少性の高いアイテムをもらえるというものです。今回、このガチャの一種であるコンプガチャが、消費者庁によって、景品表示法(景表法)に違反するとの判断が示されたわけです。

 では、コンプガチャは、景表法のどの点に抵触するというのでしょうか。

 景表法とは、過大な景品類の提供や不当な表示について規制した法律であり、その第3条は次のように規定しています。

 「内閣総理大臣は、不当な顧客の誘引を防止し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を確保するため必要があると認めるときは、景品類の価額の最高額若しくは総額、種類若しくは提供の方法その他景品類の提供に関する事項を制限し、又は景品類の提供を禁止することができる。」

 そして、この法律を受けて、「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」と題された告示(昭和52年公正取引委員会告示第3号)が定められ、同告示第5項に次のような規定がおかれています。

 「二以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特定の組合せを提示させる方法を用いた懸賞による景品類の提供は、してはならない。」

 これは、いわゆる「絵合わせ」(「カード合わせ」などとも呼ばれています)と呼ばれる懸賞方法の一種です。具体的に分かりやすく言えば、お菓子の箱の中に、人気アニメのキャラクターのカードを1枚ずつ入れておき(外からはどのカードが入っているかは分かりません)、メーンのキャラクター5人分のカードがそろえば、特別な景品類と引き替えられるというような販促に用いられます。

 実際、昭和20年代後半に、ある菓子会社のキャラメルの箱にプロ野球チームの監督・選手の写真カードを入れておき、監督と9人の先発ラインアップの選手を全てそろえれば景品(グラブ、バット、カメラなど当時の子供たちのあこがれの商品)がもらえるようにしたところ、熱狂的な人気になったことがありました。

 カード自体を集めることを目的とした現在のベースボールカードとは異なり、子供たちの目的は、カードを集めてもらう景品にあったことから、中身を食べずにカード欲しさにキャラメルを買うということとなり、社会現象となったそうです。

 やがて、こういった絵合わせの手法が主に児童向けの小額商品に利用されるものであること、児童の射幸心をあおる方法であること、何度かやればすぐにでも当たって(上記で言えばカードがそろうということ)景品を取得する可能性があるように錯覚させるものであることなどにかんがみて、その方法自体を禁止することが妥当と判断され、昭和44年に全面的に禁止されたのです(ちなみに、上記告示の表記が、昭和44年ではなく昭和52年になっているのは、同年に告示の全面改正が行われたことによりますが、絵合わせについてはほぼ同じ内容となっています)。

 さきほどご説明したように、コンプガチャが「ガチャによってアイテムを集めていき、いくつかの所定のアイテムをそろえると、通常では手に入らない希少性の高いアイテムをもらえるというもの」であり、ガチャを「キャラメルの購入」、アイテムを「プロ野球チームの監督選手の写真」、希少性の高いアイテムを「景品」と置きかえれば、コンプガチャが、景表法の禁止する「絵合わせ」に該当する可能性が出てくることがお分かりいただけると思います。

 新聞報道によると、全国の消費者センターに「子供が多額の金銭を使った」とか、「多額の資金を使ったが希少カードが手に入らない」といった苦情が寄せられているとのことであり、社会現象としても、前記のキャラメルの事件に似通っています。

 ただ、本当に厳密に考えた場合に、コンプガチャが、上記「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」第5項が禁止する「絵合わせ」に該当するかについては疑問もなくはありませんでした。

ソーシャルゲーム会社側からの反論

 従来、ソーシャルゲーム会社は、ゲーム上の「アイテム」は、経済上の利益ではなく、「景品」ではないという考え方をとってきたとされています。

 景品表示法による規制の対象となる「景品」とは、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益」(景表法第2条3項)でなければなりませんから、仮に問題となっているアイテムが経済的利益ではないなら、そもそも景表法の規制対象にはならないことになります。

 そして、この景表法の規定をうけて、景品類の内容を具体化するために出された「不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件」と題する告示(昭和37年公正取引委員会告示第3号)に掲げられている景品は、次に掲げる四つとなっていますが、このいずれもが、ソーシャルゲームにおけるアイテムに、直ちにピッタリと当てはまらないことはすぐにお分かりいただけると思います。ソーシャルゲーム上のアイテムは、あくまでも電子情報であり、前述した、プロ野球チームの監督・選手の写真などとは異なるのです。

 一 物品及び土地、建物その他の工作物

 二 金銭、金券、預金証書、当せん金附証票及び公社債、株券、商品券その他の有価証券

 三 きよう応(映画,演劇,スポーツ、旅行その他の催物等への招待又は優待を含む。)

 四 便益、労務その他の役務

 ちなみに、さらに「景品類等の指定の告示の運用基準について」という通達が出されており、その第5項(1)には、「事業者が,そのための特段の出費を要しないで提供できる物品等であっても、又は市販されていない物品等であっても、提供を受ける者の側からみて、通常,経済的対価を支払って取得すると認められるものは、『経済上の利益』に含まれる。」となっています。

 後述するように、リアルマネートレードによる取得など、ソーシャルゲーム会社が公認していない裏道はありますが、原則として、当該アイテムが経済的対価を支払っても取得できないものであれば(だからこそ「レア」カードになるわけです)、その観点からも、本当に「経済上の利益」に該当するのかという疑問も出てきます。

今回の消費者庁の判断内容

 今回、消費者庁は、正式に「コンプガチャ」が、景品表示法に抵触する旨の判断を示したわけですが、コンプガチャで提供されるアイテム等の景品類該当性について、以下のように述べています。

 「『コンプガチャ』で提供されるアイテム等は、オンラインゲーム上で敵と戦うキャラクターであったり、プレーヤーの分身となるキャラクター(いわゆる『アバター』と呼ばれるものです。)が仮想空間上で住む部屋を飾るためのアイテムであったりと、様々ですが、いずれにしても、それによって消費者が、オンラインゲーム上で敵と戦うとか仮想空間上の部屋を飾るといった何らかの便益等の提供を受けることができるものであることから、『便益、労務その他の役務』に当たります。

 また、『コンプガチャ』で提供されるアイテム等は、その獲得に相当の費用をかけるといった消費者の実態からみて、提供を受ける者の側から見て、金銭を支払ってでも手に入れるだけの意味があるものとなっていると認められるので、『通常、経済的対価を支払って取得すると認められるもの」として、『経済上の利益』に当たります。」

 つまり、ソーシャルゲームにおける「アイテム」は「便益、労務その他の役務」であるとし、また、ゲーム参加者からすれば、当該アイテムが、金銭を支払ってでも手に入れるだけの意味があるものとなっていると認められるので、「通常、経済的対価を支払って取得すると認められるもの」として、「経済上の利益」に当たると判断したわけです。

 さらにその上で、消費者庁は、「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」第5項の「絵合わせ」に関する条項(「二以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特定の組合せを提示させる方法を用いた懸賞による景品類の提供は、してはならない。」)に該当するかについて、おおむね次のように判断しています。

 「符票」とは、紙片に限らず、「文字、絵、符号等によってあるものを他のものと区別する何らかの印を指すもの」であり、「数種類のアイテム等は、互いに種類が異なるものですから、端末の画面上に表されるそれぞれのアイテム等を示す図柄はそのアイテム等を他の種類のアイテム等と区別する印であり、こうした端末の画面上に表されるアイテム等を示す図柄も、懸賞景品制限告示第5項にいう『符票』に該当します。」

 これらの説明が妥当であるかどうかについてのコメントは差し控えますが、コンプガチャが単純に従来禁止されてきた「絵合わせ」に該当するという判断であれば、現在の規定を何ら変更する必要はないはずです。しかし、今回、消費者庁は、さらに、通達の一部を改正して、コンプガチャが「絵合わせ」に該当することを、わざわざ明示した規定を新設するとしており、苦しい内情を見せています。

 既に多くのソーシャルゲーム会社がコンプガチャを廃止すると公式に発表していますので、今回の消費者庁の新たな判断による直接の影響はありませんが、いずれにしても、やや後出しじゃんけん的なこの結末については、疑問がないとは言えません。

 裁判でコンプガチャが違法であるとの明確な判断が下されたわけではなく、世論の追い風を受けて、消費者庁が新たな判断を示すことによって、事実上、新たに生まれたサービスの違法性の有無が決められてしまうという今回の流れについては、今後も様々な議論があるかと思います。

 私としては、コンプリートガチャが児童の射幸心をあおる手法であることは事実であり、報道で言われているように、現実に未成年者に多額の課金が発生して問題となった以上、今回の件につき、ソーシャルゲーム会社側を特段擁護する意図はありません。

 ただ、前述のように、今回、コンプガチャを規制する根拠とされている景表法第3条の条文にはほとんど何も記載されておらず、その内容が様々な告示や通達に委ねられている現状や、従来の告示や通達の内容は、必ずしも、コンプガチャが「絵合わせ」であると断定できるだけの内容になっていなかったことなどからすれば、ソーシャルゲーム会社各社が、コンプガチャにつき、景表法に違反して違法であるとまでの断定的な判断を、事前に行うのは困難ではなかったかと思っています。

 他面、ソーシャルゲーム会社側も、役所に指摘される前に、自らの判断で、未成年者課金の制限やコンプガチャの自粛等を行っていれば、今回のような役所による介入を回避できたのではないかとも思っています。

ネットビジネスと法律のかかわり

 かように、今の規制は、ネット企業が次から次に繰り出す新しい態様のサービス形態に追いついて来られず、今回のような事態が往々にして発生することになります。

 平成12年ごろのことになりますが、インターネット上でサービスを行う企業は、ホームページでのキャンペーンとして懸賞企画を行う際に、懸賞上限を、「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」と題する公正取引委員会告示に定められた10万円以下に抑えるべきかで頭を悩ませていました。当時、その点に関する公的な判断は何も存在していなかったのです。

 ネット企業の中には、公的な判断が出るまでは、通常の懸賞と同様に10万円以下の景品しか出さないとするところもあれば、逆に、10万円を超えれば違法であるとの明確な基準がない以上は問題ないと判断して1000万円までの景品を自由に出すところもありました(当時は景表法の適用がない場合には、別の規制から上限が1000万円とされていました)。言うまでもなく、景品が10万円よりも1000万円の懸賞キャンペーンの方がずっと魅力的であって、積極的に1000万円までの景品を出した企業がビジネス上優位に立つことになります。

 当時、私は、クライアント企業からこの点の相談を受けて、インターネットの特徴からみて、10万円を超える景品を出しても問題ないであろう旨の意見書を出し、その後、当該企業は、1000万円の懸賞キャンペーンを積極的に打ち出し成功しました。数年後、その企業は、当時ヤフーが主催していた「ウェブ・オブ・ザ・イヤー」の「懸賞・得するサービス部門」で1位を受賞するまでに成長しましたが、これは他に先駆けて1000万円の懸賞キャンペーンを積極的に行ったからに他なりません。

 結局、公正取引員会は、平成13年4月26日に「インターネット上で行われる懸賞企画の取扱いについて」という判断を出し、ホームページ上で実施される懸賞企画は、一定の場合以外は、景表法に基づく規制の対象とはならない、つまりオープン懸賞として取り扱われて1000万円までの景品を出しても構わないと正式に発表しました。

 この時、仮に、ホームページ上で実施される懸賞企画にも、景品について10万円の上限規制がかかると正式に判断されていたとすれば、今回と同様に、1000万円の懸賞キャンペーンを実施していた各社は大きなダメージを受けていたと思います。

 今回のコンプガチャは、言うまでもなく、時代の最先端であるSNSの登場に伴って現れたソーシャルゲームにおける新しいサービスの一つであり、それを明確に対象とした規制は存在していません。そのようなサービスが「二以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特定の組合せを提示させる方法を用いた懸賞による景品類の提供は、してはならない。」という、昭和44年に前述のキャラメルのおまけに伴う騒動などに端を発して設けられた「告示」(法律ではありません)への抵触が問題となったわけであり、告示の古くさい文言も含めて、違和感を持つ方もいらっしゃるかと思います。

 仮に、消費者庁が発表した今回の判断が正しければ、コンプガチャは、そのサービス開始早々の時点で何らかの措置がなされていたはずですが、これだけコンプガチャが普及した今ごろになって、未成年者への課金問題を契機として、突然、役所が違法と判断するというのは、いかにも日本的と言えるかもしれません。

 以上のように、ソーシャルゲーム会社が、明確な違法行為としての認識をもちながら、利益優先でコンプガチャのようなサービスを提供したと非難するのはやや筋違いと言える側面があることがお分かりいただけると思います。このような状況は、時代の先端を走るネット企業において常につきまとう問題であり、また、特に今回の問題に関しては、上記のような、景表法という特殊な法律に関する理解を前提にして、その是非を判断すべきかと思います。

「リアルマネートレード」とは?

 本件が報道される際、「コンプガチャ」とともに、リアルマネートレードという言葉がよく出てきます。リアルマネートレード(以下、「RMT」と呼びます)とは、もともと、PCオンラインゲーム上のアイテム、ゲーム内仮想通貨などを、現実の通貨で売買する経済行為を一般に意味します。

 PCオンラインゲームにおいては、取得したアイテムなどを売買して利益を得ようと不正が行われたり、ゲームバランスが崩れるといった弊害があり、大半のゲームでは、規約でRMTを禁止し、ゲーム運営会社各社は、その対策に力を入れてきました。

 近時は、ソーシャルゲーム上のアイテムの売買もこの範疇(はんちゅう)に入れて説明されていますが、もともと、PCオンラインゲームでの禁止対象として問題とされてきたRMTが、突然、ソーシャルゲームの世界において注目を集めるようになった背景には、「コンプガチャ」の問題を契機とし、ソーシャルゲームと、パチンコなどのギャンブルとの類似性が指摘されるようになったことにあります。

 つまり、単にレアカードを取得してゲームを有利に進めようという、純粋にゲームを楽しむという観点から、数百円を払ってガチャを行うのであれば特段の問題はないでしょうが、仮に、取得したレアアイテムをRMTによって換金し利益を得ようと考えてガチャを行うとすれば、パチンコなどのギャンブルに類似してくるという、近時にわかに起こってきた問題意識によるものです。

 確かに、パチンコは、金銭を支払ってプレーし、それによって得られた商品を店舗外で換金することが可能であり、ソーシャルゲームのガチャにより取得したアイテムを換金できる仕組みがあらかじめ用意されているなら、両者の類似性を認めることもできそうです。

 もちろん、ソーシャルゲームでは、RMTを禁止しており、換金までの仕組みをあらかじめ用意しているパチンコとは異なる側面があることは重要な相違であるとは思います。しかし、規約での禁止が実効性をあげることができず、RMTによる換金行為が一般化してしまえば、ソーシャルゲーム会社も、ソーシャルゲームはパチンコとは異なると説明するのは困難になる恐れがあります。

 そこで、近時、ソーシャルゲーム各社は、単に規約で禁止するだけにとどまらず、ゲーム内アイテムを換金できない仕組みを作ることを明確に表明するに至っており、この各社の取り組みが実効性をもてば、近時の、パチンコなどとの類似性批判もやがて収束していくものと思われます。

ネットにおける懸賞とギャンブルとの関係

 なお、余談ですが、実は、ネットにおける懸賞とギャンブルとの関係については、ネット業界では以前から議論がされてきたのであり、今回の騒動は別に驚くような話ではありません。

 たとえば、あるサイトの利用者が、そのサイト内でのみ通用するポイントやサイト内通貨を用いて懸賞キャンペーンに応募して、懸賞に当たった場合には、ポイントやサイト内通貨が何倍にも増加すると仮定します。仮に、そのポイントやサイト内通貨を取得するのにお金を払う必要があり、また、逆にそれらを自由に換金できるとすれば、どうでしょうか。

 お金を払って取得したポイントなどで懸賞に応募して、懸賞に当たるとそのポイントが何倍にもなって戻ってきてそれを換金できるわけですから、形式的には立派な賭博行為になり得ます。現に、平成17年1月には、ポイントを用いて会員に野球賭博をさせたインターネット運営会社が、賭博開帳図利容疑で摘発されています。

 インターネットでポイントを取り扱う事業者が作る「日本インターネットポイント協議会」という組織が、インターネットポイント・サービスの運営を行う参加企業向けにガイドラインを出していますが、その11項で「インターネットポイント・サービス提供企業が発行するポイントについては、参加消費者が現金及び電子マネーで直接購入し、発行することが出来るポイントについては取り扱わないものとする。」と明記しているのは、賭博に該当する可能性を回避するためです。

 つまり、サイト内でポイントやサイト内通貨を利用して懸賞を実施するネット企業は、その「入り口」(ポイントなどを取得する手段)と「出口」(ポイントなどを換金する手段)のいずれかをきちんと管理制限しておく必要があるわけです。上記協議会のガイドラインは、賭博との疑念を受けないように、入り口の方で制限をかけているわけです。

 ソーシャルゲーム会社は、ガチャという形で、懸賞に参加するにあたって対価を徴収する以上、入り口を制限することはできないわけですから、賭博の疑いを避けるために、出口、すなわち取得したアイテムが換金されない仕組みを、強固に推し進めなければならない事情があるわけです。

人を引きつけるゲームの原点へ回帰を

 近時のソーシャルゲームをめぐる問題の大きなポイントは、コンプガチャが景品表示法違反の違法なものではないかという点と、ソーシャルゲームとギャンブルとの類似性という点の二つです。

 前者については、今回の消費者庁の判断、及びそれに先立つソーシャルゲーム各社によるコンプガチャの廃止によって、問題は解消されましたし、後者についても、RMTが行われない仕組みがしっかりと作られれば、いずれ解消していくものと思います。

 私もご相談者と同様に、戦国武将になりきって日本を統一するために徹夜をしたり、ロールプレイング・ゲームのダンジョン(迷宮)をクリアするために、罫(けい)線用紙にダンジョンの地図を懸命に書き込んでいた口であり、ゲームにのめり込む人たちの気持ちは理解できます。

 今回の騒動でよく出てきた言葉に、「射幸心」という言葉があり、辞書を引くと、「思いがけない利益や幸運を望む心」などと書いてあります。言うまでもなく、きちんと作られたゲームは、射幸心などに頼らなくても人を引きつけます。

 コンプガチャでレアカードを取得し、あわよくば利益を得ようという気持ちも理解できなくはないですが、それは本来のゲームの楽しみ方ではない気がします。そういう一過性の金銭の絡んだ感情ではなく、このゲームは次にどのように展開するのだろう、次はこうしようとワクワクする気持ちを継続的に持ち続けることができるのが良いゲームではないでしょうか。

 ソーシャルゲーム各社が、そういったゲームの原点に立ち返って、コンプガチャなどに頼らずにワクワクするゲームを創造していく限りにおいて、今回のような事件は起きないと思っていますし、そのように期待したいところです。

2012年05月23日 09時11分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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