恋人の暴力で殺されるかも!改正DV法の保護は?

相談者 Y.Cさん

 裸になり、鏡に映った自分の姿を見たとたん、こらえ切れずに泣き出してしまいました。愛している人から加えられた暴力の跡が、どす黒いアザになって私の全身に刻まれています。

 肉体以上に心が悲鳴をあげていました。私は決心しました。「今度こそ本当に彼と別れよう。彼から逃げよう」と。

 彼と同棲どうせいを始めたのは3年前です。私は大手商社に派遣社員として勤めながら、あるエンタメ小説の同人誌に参加していました。そこで知り合ったのが2歳年上の彼です。彼は学生時代から作家志望でした。

 「会社勤めは世を忍ぶ仮の姿だよ」と笑っていた彼が、いきなり辞表を出したのは、文芸誌の新人賞にノミネートされた後でした。「もう少しで専業作家になれる。会社にいては原稿を書く時間が取れない」と思ったからだそうです。とんでもない勘違いでした。彼も作家で食べていくことの大変さを知っていたはずです。文学賞のほとんどの受賞者が「会社はまだ辞めないでください」と編集者に必ず念押しされます。賞を取っても、コンスタントにしっかりした作品を書けずに消えてしまう人がほとんどだからなのです。

 ましてや彼は受賞者ですらないのです。自ら収入の道を絶つことで困窮するのは、目に見えていました。家賃が払えなくなり、とうとう私の1Kのアパートに転がり込みました。大家さんには一緒に住んでいることを内緒にしていましたが、アパートの住人は夫婦だと思っていたはずです。

 夜も昼もパソコンに向かって小説を書いている彼。私は一生懸命に支えたつもりでした。しかし、どの新人賞に応募しても、候補作にすらなりません。

 「あの俗物と縁を切ってやったよ」

 2年ほどたったころ、帰宅した私に彼が興奮した調子で言い放ちました。彼を応援してくれていた編集者のアドバイスに逆上し、口論になったようなのです。そのころからです、彼の様子がおかしくなってきたのは。パソコンにも向かわず、昼間からウイスキーをあおって不機嫌そうに寝転がっています。作品はほとんど書けなくなりました。特に機嫌が悪くなるのが、私が会社の同僚と飲んで帰ってくる時でした。根掘り葉掘り聞いてくるのです。

 「誰と一緒にいた。男だろう。どこで何をやっていたんだ」

 ある日、いつものようにからんでくるので適当に笑ってごまかしていました。ところが、「何をにやにやしている。俺をバカにしているのか」といきなり暴力をふるい始めました。私の首を絞めたり、押し倒して殴ったりしました。純粋無垢むくで優しくて大好きだった彼。その変わりようがショックで、私は泣くばかりでした。暴力の後、彼は激しく悔やみ、「許してくれ」と涙を流しました。

 彼はとても弱い人なのです。彼の謝罪の言葉を信じて、二度と暴力をふるわないことを約束する念書を書いてもらいました。私は病院にも行かず、警察沙汰にもしなかったのですが……。しかし、その後も彼はささいなことですぐに逆上し、私を殴ったり、蹴ったりしました。その後は、いつも同じように謝罪をして許しを請うのです。

 何度か同じことが繰り返され、私はすっかり疲れてしまいました。輝いていた彼はすっかり色あせてしまいました。今は彼と別れたい気持ちで一杯です。別れ話を切り出せば、暴力をふるわれることは目に見えています。ところが、なかなか言い出せずにいます。私が家出しても、彼は私の居所を突き止め、さらに残酷なことをするはずです。殺されるのではないかとすら思っています。

 先日新聞を読んでいたら、配偶者暴力防止法(DV防止法)という法律があることを知りました。これまで、夫から暴力をふるわれる妻などを保護の対象としていましたが、法改正で、今年1月から交際相手からの暴力についても配偶者からの暴力の場合と同様に保護を受けることができるというのです。

 私もその法律によって保護を受けたいと思っています。法律の内容を教えていただけますでしょうか。(最近の事例を参考に創作したフィクションです)

回答


繰り返されるDVをめぐる痛ましい事件

 2013年5月、神奈川県伊勢原市で、「ドメスティック・バイオレンス」(DV)の被害に悩む女性が、元夫に包丁で切りつけられて意識不明の重体になるという痛ましい事件が発生しました。

 報道によれば、この女性は、2005年にこの男性と結婚しましたが、すぐにDVが始まり、離婚後一時期、DV被害者を保護する「シェルター」へ避難し、長男には学校で偽名を使わせ、住民票の閲覧を制限する手続きをとっていました。これだけ用心深く暮らしていたにもかかわらず、残念ながら居所を突き止められて被害に遭ったものです。

 事件発生の1か月前、女性が自宅の敷地内に隠しカメラを取り付けた自転車を発見し警察に通報しました。ところが、通報を受けた警察が十分な対応を取らなかったことで最悪の結果を招いてしまい、警察にも非難の声が上がりました。

 被害者の母親が、「結局、誰かが傷つかないと助けてもらえないのかという思いでいっぱいです」とのコメントを事件後発表していますが、この種の事件が発生した際に、誰もが抱く警察への率直な不満であると思います。

 このようにDVに絡んだ痛ましい事件が繰り返される中、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」、いわゆる配偶者暴力防止法(もしくはDV防止法)が改正されて、本年1月3日から施行されました。今回の改正により、皆さんがDVといってすぐに思い浮かべる夫婦間の暴力ばかりでなく、「生活の本拠を共にする交際相手」からの暴力についても、法の適用対象とされることとなります。

 今回は、配偶者暴力防止法の内容をおさらいしつつ、今回の法改正について解説したいと思います。

DV(ドメスティック・バイオレンス)とは


 「ドメスティック・バイオレンス」とは、英語の「domestic violence」をカタカナで表記したもので、略して「DV」と呼ばれることもあります。

 一般的には「配偶者や恋人など親密な関係にある、またはあった者からふるわれる暴力」という意味で使用されることが多いようです。内閣府では、人によって異なった意味に受け取られるおそれがある「ドメスティック・バイオレンス」という言葉は正式には使わずに、「配偶者からの暴力」という言葉を使っています。本解説では、文脈によって適宜使い分けますが、基本的には同じ意味であると理解していただきたいと思います。

 そして、この配偶者からの暴力にかかわる通報、相談、保護、自立支援等の体制を整備し、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図ることを目的とするのが、今回改正された、配偶者暴力防止法(もしくはDV防止法)といわれるものです。

 なお、「配偶者」には、従来から、婚姻の届出をしていないいわゆる「事実婚」を含み、離婚後(事実上離婚したと同様の事情に入ることを含みます。)も引き続き暴力を受ける場合等も含まれるとされていました。これに加え、さらに今回の法改正によって、「生活の本拠を共にする交際相手」からの暴力についても、法の適用対象とされることになったわけです。

 ちなみに、2012年4月、内閣府男女共同参画局が発表した「男女間における暴力に関する調査報告書」によれば、女性の約3人に1人は配偶者から被害を受けたことがあり、約10 人に1人は何度も受けているにもかかわらず、被害を受けた女性の約4割はどこにも相談していないとのことです。同様に、約10 人に1人は交際相手から被害を受けたことがあるにもかかわらず、被害を受けた女性の約3割はどこにも相談していないとの内容となっており、本件問題を巡る深刻な状況が浮き彫りにされています。
 交際相手からの暴力も救済の対象

 配偶者暴力防止法は、後述のように、「配偶者」からの暴力の特殊性に鑑みて、被害者に対する支援や、重大な危害を生じさせる恐れがある場合における保護命令等の制度を定めたものです。

 ただ、生活の本拠を共にする「交際相手」からの暴力についても、配偶者と同様の共同生活を営んでいることにより「囚とらわれの身」の状況が存在し、「外部からの発見・介入が困難であり、かつ、継続的になりやすい」ということが認められるほか、ストーカー規制法や刑法などによる救済が困難であって、配偶者からの暴力の被害者と同様の救済の必要性が認められます。そこで、今回の法改正によって、「準用」という形で配偶者暴力防止法の対象とすることとしたものです。

 婚姻関係にない場合のつきまとい等にはストーカー規制法がすぐにイメージされると思いますが、被害者と加害者が同居している事案については、ストーカー規制法による禁止命令の適用が難しく、また刑法の傷害罪などによる事件化も犯行日時の特定や証拠の収集が困難な場合が多いのが実情です。かように、我が国の法制度上、迅速な被害者救済を図ることが難しいケースが問題となる中で、より端的に配偶者暴力防止法における保護命令制度の適用による救済を図ることになった訳です。

 なお、ストーカー規制法については、本連載「昔の知り合いからネットを使ったストーカー行為 どうすればいい?」(2012年12月12日)をご参照下さい。

生活の本拠を共にする交際相手とは

 具体的に「生活の本拠を共にする」場合とは、被害者と加害者が生活の拠より所としている主たる住居を共にする場合を意味するものと考えられます。

 生活の本拠の所在については、住民票上の住所によって形式的・画一的に定まるものではなく実質的に生活をしていると認められる場所をいい、共同生活の実態により外形的・客観的に判断されるべきものと考えられていますが、補充的に意思的要素が考慮されることもあります。したがって、居住期間の単純な長短のみで「生活の本拠を共にする」かが決まるものではなく、さらに生計が同一であるかどうかという点も、その判断に当たっての主たる要素と考えられないとされています。

 結局、具体的な判断に当たっては、住民票の記載、賃貸借契約の名義、公共料金の支払名義等の資料から認定することができる場合はもとより、そのような資料が存在しない場合であっても、写真、電子メール、関係者の陳述等から生活の実態を認定し、「生活の本拠を共にする」と判断することになります。

 ちなみに、いわゆる法律婚と事実婚の区別については、法律婚における要素である「婚姻意思」「共同生活」「届出」のうち、「届出」がないものが事実婚とされています。「生活の本拠を共にする交際相手」については、さらに「婚姻意思」も認められない、「共同生活」のみを送っている場合が想定されています。したがって、共同生活を送っているが「婚姻意思」が認定されないために、「事実婚」としての救済対象とならなかったようなケースが、今回新たに保護の対象になるわけです。

暴力と暴言…典型的なDVの態様

 殴ったり蹴ったりするなど、直接何らかの有形力を行使するもので、傷害罪や暴行罪に該当する違法な行為が典型的なものとなります。しかし、心ない言動等によって相手の心を傷つけるもの(精神的な暴力)もDVとされています。

 精神的暴力については、その結果として、 PTSD(心的外傷後ストレス障害)に至るなど傷害罪とみなされる場合も考えられます。その程度に至らない場合でも、例えば、以下のような場合が挙げられます。

 大声でどなる/「誰のおかげで生活できるんだ」などと言う/実家や友人とつきあうのを制限したり電話や手紙を細かくチェックしたりする/何を言っても無視して口をきかない/人の前でバカにしたり命令するような口調でものを言ったりする/大切にしているものを壊したり捨てたりする/生活費を渡さない、外で働くなと言ったり仕事を辞めさせたりする/子どもに危害を加えるといって脅す/殴るそぶりや物を投げつけるふりをして脅かす…などが挙げられます。

加害者の暴力から逃げられない多くの理由

 DVの特徴として、被害者が加害者の暴力から逃げられないことが挙げられています。「逃げたら殺されるかもしれない」という強い恐怖心や、暴力をふるわれ続けることにより、「自分は夫から離れることができない」「助けてくれる人は誰もいない」といった無気力状態に陥っていたりすることが理由の場合があります。また、「暴力を振るうのは私のことを愛しているからだ」「いつか変わってくれるのではないか」という相手に対する思いが、被害者であることを自覚することを困難にし、複雑な心理状態に陥らせています。

 また、夫の収入がなければ生活することが困難であるため、今後の生活を考えると逃げることができないといった経済的な問題、子どもがいる場合は子どもの安全や就学の問題、あるいは仕事を辞めなければならなかったり、これまで築いた地域社会での人間関係など失うものが大きいことなども、加害者からの逃避を妨げている理由として考えられます。

 冒頭の内閣府の調査でも、DV被害をどこにも相談しなかった理由として、「自分にも悪いところがあると思ったから」「自分さえ我慢すればなんとかこのままやっていけると思ったから」「相談しても無駄だと思ったから」「恥ずかしくて誰にも言えなかったから」「世間体が悪いと思ったから」「相手の行為は愛情の表現だと思ったから」「他人を巻き込みたくなかったから」「そのことについて思い出したくなかったから」「他人に知られるとこれまで通りのつきあい(仕事や学校などの人間関係)ができなくなると思ったから」「どこ(だれ)に相談して良いのか分からなかったから」「相談したことが分かると仕返しを受けたり、もっとひどい暴力を受けると思ったから」……など様々な事情が挙げられています。

 さらに、DVの特徴として、家庭内で繰り返されるケースが多く、周囲の者が容易に暴力の存在を認知できない場合もあることから、配偶者からの暴力が周囲に顕在化した時点では、被害者のダメージは既に深刻な程度に至ってしまっているといった問題があるとも言われています。

 これらDVの特徴ですが、その多くの部分が、家庭内における配偶者からの暴力の場合のみならず、一緒に生活している交際相手からの暴力の場合にも、同様に当てはまることがお分かりになるかと思います。

被害者の対処方法…刑事・民事事件になる前に

 DVにおける被害者側の対処方法としては、傷害罪などで刑事事件に発展させることで、警察に介入してもらうことが考えられますし、民事事件としては、不法行為に基づく損害賠償請求の問題とすることが考えられます(配偶者間の場合には、離婚を巡る裁判の中で慰謝料請求として現れることが多いと思います)。

 ただ、刑事事件にする場合、傷害の程度など、その被害が相当のレベルに達している必要があるでしょうし、民事事件の場合でも、裁判における立証といった問題がありますので、実際のハードルは決して低くはありません。

 そこで、このような問題に発展させる前段階として、活用されることが想定されているのが、配偶者暴力防止法に定められた諸制度です。

 配偶者暴力防止法は、2001年10月13日に施行され、幾度かの改正を経て、現在の法令となっています。なお、今回の改正では、保護対象の拡大に伴って、法律の正式名称が、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」に改められています(「等」の言葉が追加されているわけです)。

保護命令…具体的な保護のための制度

 配偶者暴力防止法で活用されている制度に「保護命令」という制度があります。保護命令とは、被害者の生命又は身体に危害が加えられることを防止するために、裁判所が配偶者に対し出す命令のことで、以下の5つの類型があります。

 <1>被害者への接近禁止命令

 <2>被害者への電話等禁止命令

 <3>被害者の同居の子への接近禁止命令

 <4>被害者の親族等への接近禁止命令

 <5>被害者と共に生活の本拠としている住居からの退去命令

 なお、以下に出てくる「配偶者」には、既に述べましたように、婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者や、今回の改正によって、生活の本拠を共にする交際をする関係にある相手も含めて考えて下さい。

 <1>は配偶者に対し、6か月間、被害者の身辺につきまとったり、その住居、勤務先など被害者が通常いる場所の近くをうろつくことを禁止する命令です。

 <2>は配偶者に対し、6か月間、面会の要求や無言・夜間の電話等、法律の定めるいずれの行為をも禁止する命令です。

 <3>は子を幼稚園から連れ去られるなど、子に関して被害者が配偶者に会わざるを得なくなる状態となることを防ぐのに必要があると認められるとき、配偶者に対し、6か月間、被害者と同居している子につきまとったり、住居、学校などその子が通常いる場所の付近をうろつくことを禁止する命令です。

 <4>は配偶者が被害者の実家など密接な関係にある親族等の住居に押し掛けて暴れるなどして、その親族等に関して被害者が配偶者に会わざるを得なくなる状態となることを防ぐのに必要があると認められるとき、配偶者に対し6か月間、被害者の親族等につきまとったり、住居、勤務先などその親族等が通常いる場所の付近をうろつくことを禁止する命令です。

 <5>は被害者と配偶者が同居している場合で、被害者が同居する住所から引っ越しをする準備等のために、配偶者に対し、2か月間、その住居からの退去及び住居の付近をうろつくことを禁止する命令です。

保護命令に関する手続き

 最初に、被害者本人が裁判所に保護命令を出すよう申し立てをすることになります。親族や子らが代わりに申し立てたり代理することはできません。

 具体的には、配偶者の住所を管轄する裁判所(もしくは、被害者の住所又は居所を管轄する裁判所、配偶者からの暴力、脅迫が行われた地を管轄とする裁判所)に対し、身体に対する暴力(性的暴力・精神的暴力はこれには含まれません)または生命・身体に対する脅迫を受けた状況、当該暴力により被害者の生命または身体に重大な危害を受けるおそれが大きいという事情等を記載することになります。

 申立手数料は印紙代1000円のほかに予納する郵便切手代(2500円分)などがかかりますが、通常の民事訴訟のように実費だけで何万円もするような場合と比べると、利用しやすい負担となっています。申し立てがなされた場合、保護命令が発せられるまでの期間については、それぞれの事案によって異なってきますが、裁判所は速やかに裁判をすることとなっています。

 また、この保護命令が発せられた場合、裁判所は、警察や、被害者が相談をした配偶者暴力相談支援センター等に保護命令が発せられたことを通知することとなっており、保護命令に違反した場合は、違反した加害者には、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する」という罰則が設けられていますから、ある程度の実効性を伴うものといえます。

 なお、配偶者暴力相談支援センターとは、都道府県が設置する婦人相談所その他の適切な施設であり、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図るため、<1>相談や相談機関の紹介<2>カウンセリング<3>被害者及び同伴者の緊急時における安全の確保及び一時保護<4>自立して生活することを促進するための情報提供その他の援助<5>被害者を居住させ保護する施設の利用についての情報提供その他の援助<6>保護命令制度の利用についての情報提供その他の援助などを行っています。

 ご相談の事案においても、まずは、警察や配偶者暴力相談支援センター等の支援を得て、加害者の暴力から逃げることが可能になるかと思われます。

損害賠償請求について

 なお、前述したように、不法行為に基づく損害賠償請求事件を提起することもできます。例えば、東京地方裁判所は、平成19年2月2日付判決で、加害者の被害者に対する暴力行為の有無、程度、態様及び損害の有無、程度について判断し、加害者に総額で約285万円の損害賠償を支払うよう判示しました。

 ただ、現実問題として、損害賠償請求より、まず、身体、生命の安全や、平穏な生活の確保が優先されると思いますので、前述のように、配偶者暴力防止法上の保護命令の申し立てをすることが、被害から抜け出す最初の一歩として重要です。まずは、一人で悩むのではなく、関係する各組織に対し、積極的に相談をすることから始めることをお勧めしたいと思います。

 ちなみに、神奈川県警では、県警の不適切な対応が明らかになった冒頭の女性刺傷事件を教訓に、警察署に寄せられる相談や情報を集約・分析し、迅速に対応する体制を整えるため、DV、ストーカー、児童虐待などの事案を担当する専門部署を2013年7月に立ち上げて成果を上げているとのことです(人身安全事態対処プロジェクト)。

ストーカー規制法も改正へ

 余談ですが、配偶者暴力防止法と同時期に、ストーカー行為への対応を強化するストーカー規制法も改正されました(既に施行済み)。電子メールを送信する行為の規制対象への追加、禁止命令等を求める旨の申出及び当該申出をした者への通知等つきまとい等を受けた者の関与の強化、ストーカー行為等の相手方に対する婦人相談所その他適切な施設による支援の明記、禁止命令等をすることができる公安委員会等の拡大などといった措置が講じられたものです。

 相手に拒まれたのに繰り返し電子メールを送信する行為については、2012年11月に発生した神奈川県逗子市のストーカー事件において、旧法の下では、禁止される「つきまとい等」に該当しないとされ、警察が立件を見送った結果、女性が殺害されるという悲劇的な結末を迎えた事に対する反省が背景にあります。

 ストーカー規制法、配偶者暴力防止法の相次ぐ改正によって、交際相手や配偶者などから加害を受ける女性が少しでも救済されることを願ってやみません。

 

2014年01月22日 08時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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