関連会社への出向命令、無効になる場合とは

相談者 H.Uさん

 「こんな計画、とても無理です」。机の上に置かれた「リバイバル計画」という文書の中身を見て、私は思わず声をあげてしまいました。

 私は中堅製造機器メーカーの人事課長。中国企業との価格競争でわが社は業績の低迷が続き、先日開催された取締役会で「リバイバル計画」が決まりました。リバイバルとうたっていますが、要はリストラです。私は上司である取締役総務部長からさっそく呼び出しを受け、人員削減までの道筋を詰めるよう命じられました。当社では、数年前にも数百人規模の人員整理を伴うリストラを実施したのですが、その時は希望退職者が予定数に達したこともあり、無事に終了しました。しかし、今回の人員削減は、2度目でしかも前回より規模が大きいこともあって、希望退職者が予定数に達しない可能性が非常に高いと思いました。それで「無理です」と正直に答えたのです。

 これに対して総務部長は「今回のリストラにおいては、まず、人事課がリストラの候補者を選んで、直属の上司から希望退職に応じるように勧めてもらう。応じればそれでよし。応じなければ関連会社への出向を命じる。これにより本社の経費は圧縮されるわけだ。さらに、出向した社員に、新しい能力を開発するという名目でこれまでと全く違う業務をさせれば、自分から退職したいと言い出すに決まっている。この線で計画をまとめてくれ」と強い口調で迫ってきました。私はどうすることもできず、ただじっと机の上の紙を見ていました。

 今回、リストラの対象になるのは私と同じ世代の社員です。家族ぐるみの付き合いがある人も少なくありません。私は、「いやな役割だな」と思いながら、リストラの実行計画を作成し始めたのですが、他社の事例を調べているうちに気になる情報を見つけました。あるメーカーで、技術系社員として採用され、研究開発に携わっていた社員の事例です。彼は上司に希望退職に応募するよう求められたのですが、これを拒否したところ、子会社への出向を命じられた上に、製品の箱詰めなどの単純作業に従事させられました。この件は裁判になり、裁判所は出向命令を無効と判断したというのです。当社の就業規則の中には、「業務上の必要がある場合には出向を命じ得る」といった、出向に関する明確な諸規定がありますが、このまま総務部長が描いた通りの計画を実行に移した場合、わが社による出向命令も無効とされてしまう可能性があるのでしょうか。(最近の例をもとに創作したフィクションです)

(回答)

リコーによる出向命令が無効に

 2013年11月13日、「リストラで出向、無効」「リコーの出向命令無効」などという見出しの報道がなされました。業績悪化による人員整理を理由に、子会社への出向を命じられた、大手事務機器メーカーであるリコーの男性社員2人が、出向無効の確認などを同社に求めた訴訟で、東京地方裁判所が12日、「命令は原告の自主退職を期待したもので人事権のらん用だ」と指摘し、出向命令を無効とする判決を言い渡したのです。

 報道によれば、リコーは、11年に国内外で社員1万人を削減するリストラ計画を発表、1600人を目標に希望退職を募りましたが、現実には、リストラ対象者を選定した上で退職勧奨を行い、退職勧奨に応じなかったリストラ対象者を技術・開発職から、箱詰め作業等の肉体労働や荷受け・数量確認・開こん等の単純作業を行う部署に出向や配置転換したということであり、退職勧奨を拒んで子会社に出向させられた社員の一部が裁判を提訴したとのことです。

 東京地方裁判所は、「出向命令権に法律上の根拠がある場合であっても、使用者は、これを無制約に行使しうるものではなく、出向命令権の行使が権利濫用に当たる場合には、当該出向命令は無効となる」とした上で、出向先における作業は立ち仕事や単純作業が中心で、個人の机もパソコンも支給されることなく、それまで一貫してデスクワークに従事してきた原告らのキャリアや年齢に配慮した異動とは言い難く、身体的にも精神的にも負担が大きい業務であることが推察されると認定し、本件出向命令は、退職勧奨を断った原告らが翻意し、自主退職に踏み切ることを期待して行われたものであって、人事権の濫用として無効であるとしたものです。

 これに対し、リコーは東京高等裁判所に控訴しましたが、昨年7月18日に和解が成立し、原告らは事務系職場に復帰することとなりました。また、この和解を受けて、リコーは、係争中の社員ばかりでなく、係争中でないとしても同時期に出向命令を出した社員に対して、その希望を聞いた上で再配置する意向を固めたということです。

事件が契機となり「ブラック企業大賞」にノミネート

 リコーは、この事件を契機として、2014年の「ブラック企業大賞」にノミネートされ、最終的に4位になりました。ちなみに、大賞に選出されたのはヤマダ電機です(このブラック企業大賞については、本連載2014年4月23日付「話題のブラック企業、どんな会社?見分け方は?」をご参照下さい)。リコーは、リストラ実現のために、企業にとって最も重要な社会的信用を毀損きそんさせてしまったわけです。

 本事件は、企業のリストラに伴う、いわゆる「追い出し部屋」問題に対して警鐘を鳴らすものであり、安易な出向命令の利用が、企業におけるリスクとなり得ることを社会に知らしめたと言えるかと思います。

 サラリーマンであれば、長い会社生活の中で、転勤辞令と同様に、他社への出向を命じられることも珍しいことではないかと思われます。ただ、それによって、生活や職場の環境が変わることは言うまでもなく、対象者の生活設計に大きな影響を与えることになります。今回は、出向命令について説明してみたいと思います。

出向命令とは

 「出向命令」とは、簡単に言えば、現在の使用者(出向元)の従業員としての地位を維持しながら、他の使用者(出向先)の指揮命令の下で長期にわたり就労させる人事異動のことをいうとされています。

 ある調査によれば、従業員1000人以上規模の企業の88.4%、300人以上999人以下の企業の74%が出向者の送り出しまたは受け入れにかかわっているとのことであり、系列会社等への出向は、主に大企業を中心に非常に広く行われています。

 そういう意味では、本コーナーの「転勤辞令、『子どもの通学』理由に拒否できる?」(2014年12月24日)でも書いたように、転勤と同様に、出向も企業戦士の宿命と言えるかもしれません。ただ、一般に、出向は転勤と同様の感覚で語られることが多いものの、労務提供の相手方が変わるという点で本質的な違いがあり、必ずしも法的に全く同じように取り扱うことはできません。

社員の承諾その他これを法律上正当づける特段の根拠

 労働契約は、社員が会社の具体的な指揮命令に服することを前提としており、労務提供の相手方が変わってしまう出向命令が、何の制約もなく自由に許されるはずもありません。

 本件におけるリーディングケースである東京地方裁判所・昭和41年3月31日判決は、雇傭こよう契約の一身専属的特質からいって、「当該労働者の承諾その他これを法律上正当づける特段の根拠なくして労働者を第三者のために第三者の指揮下において労務に服させることは許されない」と判示しています。つまり、原則としては、社員の承諾が必要ということです。

 他方、「その他これを法律上正当づける特段の根拠」がある場合も、出向命令が許されるわけであり、例えば、就業規則上の明文規定などがそれに該当すると一般に解されています。

 この点、最高裁判所・平成15年4月18日判決も、次のように、個別同意なく、社員に出向を命じることができるとしています。

 「(1)本件各出向命令は、被上告人(注:会社)が八幡製てつ所の構内輸送業務のうち鉄道輸送部門の一定の業務を協力会社であるA社に業務委託することに伴い、委託される業務に従事していた上告人ら(注:社員)にいわゆる在籍出向を命ずるものであること、(2)上告人らの入社時及び本件各出向命令発令時の被上告人の就業規則には、『会社は従業員に対し業務上の必要によって社外勤務をさせることがある』という規定があること、(3)上告人らに適用される労働協約にも社外勤務条項として同旨の規定があり、労働協約である社外勤務協定において、社外勤務の定義、出向期間、出向中の社員の地位、賃金、退職金、各種の出向手当、昇格・昇給等の査定その他処遇等に関して出向労働者の利益に配慮した詳細な規定が設けられていること、という事情がある。以上のような事情の下においては、被上告人は、上告人らに対し、その個別的同意なしに、被上告人の従業員としての地位を維持しながら出向先であるA社においてその指揮監督の下に労務を提供することを命ずる本件各出向命令を発令することができるというべきである」

明確な形で規定されていることが必要

 ただ、就業規則などに、単に「出向」という用語が現れていればそれだけで良いというわけではなく、出向義務の存在に関しては、明確な形で規定しておく必要があります。

 東京高等裁判所・昭和47年4月26日判決は、就業規則には、従業員の休職について別に定める休職規程によるとだけ定め、休職規程によれば、休職に該当する場合の一つして「他社出向」その他特命による業務処理のために必要があるときに特命休職を命ずることを定めて、休職期間、休職期間中の給与、復職について簡単に定めているにすぎないという事案において、出向につき、就業規則に根拠を求めるとしても、「就業規則に明白に出向義務を規定する必要がある」と判示しており、同判決の上告審である最高裁判所もこれを認めています(最高裁判所・昭48年10月19日判決)。

 つまり、就業規則などに、出向の存在を当然の前提としたような規定があるだけでは足りないのであって、社員の出向義務に関して、明確な形で規定しておく必要があるとされたわけです。

規定があっても、当然に出向が認められるわけではない

 現在では、かつての判例の事例のように、就業規則などにおいて、従業員の出向義務について明文の規定が存在しないケースはほとんどなく、多くの企業では、出向命令・出向義務に関する明確な規定が設けられていると思います。ただ、明確な形で規定さえ設けられていれば、社員の承諾があったということになり、出向命令が常に有効とされるわけではありません。

 大阪高等裁判所・平成2年7月26日判決は、「改正就業規則において新たに出向に関する規定をもうけたことは、従業員にとって労働条件の不利益な変更にあたるというべきであるとしても、右規定は、労働組合との協議を経て締結された本件労働協約に基づくものであるのみならず、その内容において、出向先を限定し、出向社員の身分、待遇等を明確に定め、これを保証しているなど合理的なものであって、関連企業との提携の強化をはかる必要が増大したことなど、控訴人の経営をめぐる諸般の事情を総合すれば、出向に関する改正就業規則及び出向規程の各規定はいずれも有効なものというべきであり、その運用が規定の趣旨に即した合理的なものである限り、従業員の個別の承諾がなくても、控訴人の命令によって従業員に出向義務が生じ、正当な理由がなくこれを拒否することは許されないものと解するのが相当である」としながらも、「控訴人のなした本件出向命令には、その業務上の必要性、人選上の合理性があるとは到底認められず、むしろ、協調性を欠き勤務態度が不良で管理職としての適性を欠くと認識していた被控訴人を、出向という手段を利用して控訴人の職場から放逐しようとしたものと推認せざるを得ない……本件出向命令は業務上の必要があってなされたものではなく、権利の濫用に当たり、同命令は無効というべきである」としています。

 また、長野地方裁判所松本支部・平成元年2月3日決定も、「会社には、右労働協約及び就業規則の各規定のほかには、出向の諸条件について具体的に定めた規定は見当たらないところであるが、右労働協約及び就業規則の各規定は、会社において債権者(注:出向命令を受けた社員)に対し、労働契約の内容として明示した労働条件の範囲内にあるものとして系列会社への出向を命ずることのできる特段の根拠となるものと解するのが相当である」とした上で、「本件出向命令は、本件配紙ミスを契機として債権者の再教育の必要性からなされたものではあるが、その再教育のために、松本工場を離れて遠隔の地のX社においてこれをなさざるを得ない合理的理由が見当たらないばかりか、本件出向命令は債権者にとって家庭生活上重大な支障を来たし、極めて過酷なものであるにもかかわらず、その点につき会社はなんら配慮した形跡がなく、さらに前記認定の債権者のみならず、他の従業員らの作業ミスに対する会社の従前の対応の仕方、会社から系列会社への出向事例にみられるその目的と人選の内容等を総合考慮すれば、本件出向命令は、その余の点につき判断するまでもなく、会社及び債権者間の労使の関係において遵守じゅんしゅされるべき信義則に違反した不当な人事であり、権利の濫用に当たり無効のものとわざるを得ない」と判示しています。

出向命令が有効となる条件

 こうした裁判例などから導かれるのは、出向にあたっては、原則として社員の同意が必要ですが、就業規則などに明確な出向命令・出向義務が規定されている場合には、これらの規定が労働契約の内容となることから、原則として、出向命令は有効となる、ただし、出向命令自体に正当な根拠があるとしても、それが権限濫用と認められるような場合には無効となるということかと思われます。なお、この権限濫用の点については、2008年3月1日に施行された労働契約法第14条が、「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする」と明確に規定しています。

 これら判断基準としては、<1>出向命令に業務上の必要性があり、出向者の選定に合理性があるか、<2>出向先での労働条件が就業規則等で明確にさていたり、採用時に出向について説明があり社員の同意を得ていたり、同種の出向が行われて社員が受容していたりすることによって、出向が労働契約の内容になっているか、<3>出向の定義、出向期間、出向中の社員の地位、賃金、退職金、各種の出向手当、昇格・昇給等の査定その他処遇等に関して出向者の利益に配慮しているか、などが挙げられると考えられます。

リコーの裁判でも、会社の出向命令権は肯定

 さて、冒頭で指摘したリコーに関わる裁判ですが、東京地方裁判所・平成25年11月12日判決は、次に述べるように、従来からの判例と同様に、次のように判示して、出向命令自体には法律上の根拠があるとしています。

 「出向は、労務提供先の変更を伴うものであり、出向する労働者が労働条件その他の待遇に関する基準において不利益を被るおそれがあることにかんがみれば、使用者が労働者に出向を命ずるに当たっては、当該労働者の同意その他出向命令を法律上正当とする明確な根拠を要するというべきである。なお、この点について、原告ら(注:出向を命じられた社員)は、出向により就労環境等の労働条件全般が大きく変更することを理由に、出向には労働者の個別具体的な同意が必要である旨主張するが、労働者の同意がない場合であっても、これに代わる明確かつ合理的な根拠があれば、使用者には出向命令権があると解すべきであるから、原告らの主張は採用できない。そこで、被告(注:リコー)に出向命令権があるか否かについて検討するに、被告の就業規則には、業務の都合等により社員の能力や適性に応じた異動(出向を含む)を命ずる場合がある旨の定めがあり、国内の関連会社の出向に関する規定である国内派遣社員規定にも、出向先における労働条件及び処遇について配慮する内容の規定が設けられている……加えて、原告らと被告との労働契約において、職種や職務内容に関し特段の限定がないこと、原告らは、被告に入社するに際して、就業規則その他服務に関する諸規則を遵守すること、業務上の異動、転勤及び関係会社間異動の命令に従うこと等を約束する誓約書を差し入れていること、国内派遣社員規定及び関連会社管理規定において、リコーロジスティクスが出向先として予定された企業であることが具体的に明記されていること等も併せ鑑みれば、本件では、労働者の個別の同意に代わる明確かつ合理的な根拠があるというべきである。したがって、本件出向命令には法律上の根拠があるというべきであり、被告は、原告らに対し、リコーロジスティクスへの出向を命じる出向命令権があるというべきである」

その上で出向命令は人事権の濫用と判断

 東京地方裁判所は、その上で、次のように述べて、出向命令が人事権の濫用として無効であると判断しました。

 まず、裁判所は、「出向命令権に法律上の根拠がある場合であっても、使用者は、これを無制約に行使しうるものではなく、出向命令権の行使が権利濫用に当たる場合には、当該出向命令は無効となる(労働契約法14条)。そして、権利濫用に当たるか否かの判断は、出向を命ずる業務上の必要性、人選の合理性(対象人数、人選基準、人選目的等の合理性)、出向者である労働者に与える職業上又は生活上の不利益、当該出向命令に至る動機・目的等を勘案して判断すべきである」と、既に説明した従来の判例の一般論を指摘しました。

 その上で、「平成23年4月当時、被告グループの経営環境が悪化していたこと、競合他社と比較して、被告グループの固定費の割合が高かったことは、認定事実のとおりであり……2兆円規模で売り上げても、税引き前利益が450億から570億円程度しか出せない構造となっていた事実を認めることができる。上記に鑑みれば、固定費削減の具体的な方策の一つとして、作業手順や人員配置を見直し、それによって生じた余剰人員を外部人材と置き換えること(事業内製化)で人件費の抑制を図ろうとすることには、一定の合理性があるというべきである」として、本件出向命令の業務上の必要性は肯定しました。

 ただし、本件出向命令における人選の合理性(対象人数、人選基準、人選目的等)については、「被告における余剰人員の人選が、基準の合理性、過程の透明性、人選作業の慎重さや緻密さに欠けていたことは否めない……余剰人員の人選は、事業内製化を一次的な目的とするものではなく、退職勧奨の対象者を選ぶために行われたものとみるのが相当である」と判断しました。

 さらに、原告らに与える職業上又は生活上の不利益につき、「リコーロジスティクスにおける作業は立ち仕事や単純作業が中心であり、原告ら出向者には個人の机もパソコンも支給されていない。それまで一貫してデスクワークに従事してきた原告らのキャリアや年齢に配慮した異動とはいい難く、原告らにとって、身体的にも精神的にも負担が大きい業務であることが推察される。また、A及びB(注:会社の人選担当者)との面談においても、本件希望退職への応募を勧める理由として、生産又は物流の現場への異動の可能性がほのめかされていたこと、原告らと同様に余剰人員として人選され、本件希望退職への応募を断った者(原告らを含め152人)は、全員が出向対象とされ、リコーロジスティクスを含む生産又は物流の現場への出向を命じられたこと等の事実に鑑みれば、本件出向命令は、退職勧奨を断った原告らが翻意し、自主退職に踏み切ることを期待して行われたものであって、事業内製化はいわば結果にすぎないとみるのが相当である」と断じました。

 その上で、「以上に鑑みれば、本件出向命令は、事業内製化による固定費の削減を目的とするものとはいい難く、人選の合理性(対象人数、人選基準、人選目的等)を認めることもできない。したがって、原告らの人選基準の一つとされた人事評価の是非を検討するまでもなく、本件出向命令は、人事権の濫用として無効というほかない。」との結論を導き出したのです。

出向者の利益に配慮して慎重に

 リコーは控訴しましたが、冒頭で述べたように、昨年7月18日に東京高等裁判所で和解が成立し、原告らは事務系職場に復帰することとなったわけです。

 リコーは、この事件によって名前がとりあげられることとなり、社会における信用の低下を招いてしまったわけであり、企業においては、経営環境が悪化し事業の見直しを迫られ、社員に対する出向命令が必要な状況であるとしても、社員の立場に十分な配慮が必要だということです。

 相談者の会社においても、出向に関する明確な諸規定があるとのことですから、社員に出向命令を出すこと自体に問題はないと思われます。ただ、リコーの事案を十分に検証し、出向命令における人選の合理性や、対象者に与える職業上又は生活上の不利益について配慮した上で実施しないと、裁判で出向命令が無効とされてしまう可能性があることを十分に認識すべきかと思います。

 本来、出向は、新しい技術を習得するためや、逆に社員が持っている技術を伝えるために行われたり、グループ内の人材交流のために実施されたりすることもあり、必ずしも否定的にだけ捉えられるべきものではありませんが、テレビドラマなどでは、往々にしてネガティブなイメージで表現されている印象があります。企業としては、社員の出向に対する受け止め方にも十分に配慮して、出向命令を出す際には、出向命令が権利の濫用と判断されないよう、出向者の利益に配慮しながら慎重に行うべきであると考えられます。

 

2015年01月28日 08時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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